弱い私と敗北者。 (95/109)
悔し涙を目に浮かべながら私は揺られていた。行きと同じ車に乗り、目指すは雷門中。
視界がぼやけながらも私はギリッと歯軋りさせた。
何も言えなかった。何も分からなかった。
私が無力だから。無力だから何の役にも立てない。役に立ちたいと思っても気合いは空回りするだけ。
今更行くんじゃなかった、なんて無意味なことは考えない。だってもう聞いてしまったのだから。考えたって、後悔したって何も解決はしない。
私は涙を流さまいと手の甲で涙を拭った。一瞬だけ視界がハッキリと見える。そこから見えた景色は見覚えのあるもの。雷門中の象徴、稲妻のマークが見える。そう、雷門中はもうすぐそこだ。
私がぎゅっと拳に力を込めた時だった。前席のほうから低い声が響いてきた。それと同時にキュッと車は停車する。
「ククク…愚かですね…」
「っ…!?」
聞こえてきた単語にピクリと私は反応した。
愚か?
何のことを言っているの?
私は眉を寄せ、運転席を見つめた。運転席にいる声を発した主は乾いた笑い声を上げるとこう続けた。
「敗北者が何を…」
「敗、北者…?」
私はその人の視線を辿ってそちらを見た。そこには、私の大好きな彼らが大好きなボールを追っかけている姿があった。
その瞬間溜まっていた怒りがフツフツと沸き起こってくる。
「何を言ってるんですか…」
彼らが敗北者?
そんなはずはない。
「一度負けた者は何をしても無駄。練習なんて無意味なんですよ」
「っ!…そんなことない!みんなをそんな風に言わないで!」
無駄なんて絶対ない。練習が無意味なはずはない。だってだって、彼らのサッカーはキラキラ輝いている。着実に強くなってきている。
なのに、なのに、そんな風に言うなんて絶対許せない。
「ククッ…」
その人は私の台詞に反応したのか突然前髪を掻き分けるとまた静かに笑い出した。それに私は息を飲むことしか出来ない。
だけど、次に発せられた言葉を聞いて、私は頭が真っ白になってしまったんだ…。
「何を言っている…。あなたもその敗北者の1人ではありませんか…」
「っ…!」
「エイリア学園の戦いから逃げた。そう、最初にイナズマキャラバンを降りたのはあなたじゃないですか」
「…っ……」
思い出すのはあの日のこと。
『あのっ…。私……ここに残りたいの』
確かに、私は一番最初にキャラバンを降りたと言えるのかもしれない。この人の言い分が一理あると思うと私は言葉を詰まらせた。
何も言い返せれない。何の言葉も出てこない。
そう、私は…敗北者…。
『今は練習出来ないかもしれない。でも、いつかもっともっと強くなって…みんなを笑顔で迎えよう…?』
『……ありがとう』
だけど、やっぱり違う。敗北者なんかじゃない。みんなも、私も。
「違う…それは…」
「言い訳ですか?」
「っ…」
違うんだって。私は入院した彼らを放っておけなくて残った。そう言いたかった。だけどこの人はそれさえも言わせてくれない。
また私は唇を噛み締めた。みんなをあんな酷い風に言って何も言い返せれないなんて。悔しい。彼らは敗北者じゃないのに。大好きな彼らを貶されて、悔しい。
「違う…敗北者じゃない…違う!みんなはまだ、諦めてないッ!」
私はそう言い捨てると車を飛び出した。
これ以上あそこにいるとどうにかなってしまいそうだった。
大好きな彼らの努力もしらないで、見知らぬ人があんなに貶す権利なんて絶対ない。
私は一番近くで見てきたから分かる。まだ、彼らは諦めてないんだって…。
私は一目散に走っていった。大好きな彼らの元へ…。
弱い私と敗北者。
「フッ…それでいいのです…。あなた達にはまだまだ利用価値がある。強く、強くなればいい…」
"我が野望のために―…。"
無情にも、そんな声が車の中に響いた―…。
to be continued...
(2017.11.15)
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