次君に会うときこそ (91/109)
「こんにちはッ」
「…朝比奈……」
「もうすぐ退院なんだってね…!良かった…本当に良かった…」
久々に来たこの場所。稲妻総合病院。
私が病室の扉をガラリと開けるとそこには2つの影が見えた。前回来た時は1つの影しか見えなかったのに、ようやくここからでも2つの影が見られるようになった…。
それは、怪我が順調に回復していっている何よりの証で。私は頬をゆっくり緩ませた。
「すまないな…忙しい時に連絡して…」
「ううん。私も久々に会いたかったから嬉しかったよ、連絡もらった時は…」
「そ…そうか…」
私は近くにあった椅子を持ってきてその場に座った。そして2人を見ると静かに微笑んだ。
「だいぶ手足も動かせるようになったんだね…佐久間くん…」
「あぁ…今頑張ってリハビリしてるんだ…。これだったらまたやれそうな気がしてな、サッカー…」
佐久間くんは手を閉じたり開いたりを繰り返す。そして最後にぎゅっと拳を固めた。源田くんはその様子を嬉しそうな目で見つめ、静かに笑う。
佐久間くんはまた鬼道くんたちとサッカーをするため、こうして努力をしている。その努力がようやく花開いたことは大変微笑ましいことだった。
「そう言えばね、鬼道くんたち、戻って来てるんだよ…稲妻町に」
「鬼道が?」
その知らせを聞いた2人はさぞかし嬉しそうに笑った。
「退院出来る頃に一度は会えるだろうか」
「さぁな…とりあえずお前はリハビリに専念しろ。退院遅くなっちまうぞ」
「ははっ…そうだな…」
以前の彼らでは拝むことが出来なかった明るい表情。光溢れる未来に2人はいつも以上の笑みを浮かべていた。
「俺たちも何か鬼道の役に立ちたいな…」
「うーん…そうだな」
「きっと鬼道くんも喜ぶよ!」
それから繰り返されるのは他愛もない会話。しばらく会話を続けた私はそろそろと席を立った。
「それじゃあ私はこの辺でお暇させてもらうね!ありがとう、楽しかった」
「あぁ…また帝国にも遊びに来てくれ」
「…うん!」
私は席を立ち、そう言い残すと病室を後にした。最後に最高の笑顔が見れて本当に良かったと思っている。
きっと彼らはあと2、3日もすれば退院出来るだろう。それに嬉しさを隠しきれない私はふふっと笑った。
ウィーンという音を鳴らし私は稲妻総合病院を出る。辺りはもうオレンジ色を増していた。
しばらく真っ直ぐ進み前を見据えたその時だった。
木の前に見える小さな影。私はその影を視界に捉えるとピタリと止まった。
彼も私の視線に気がついたよう。少し垂れているその目を大きく開け、マフラーをぎゅっと握っていた。
何度か見たことがある彼。私はテレビで見たことがあるため彼を知っていたが、彼からしたら私なんてきっと知らないだろう。そう思っていた。
だけど、交わった視線はなかなか消えなかった。彼は私を見つめたまま寂しそうな視線を送る。
何かもの言いたげな目をしていたが、この時の私には理解することは出来なかった。
確か、名前は吹雪士郎くん…。
そうパッと頭に名前が浮かんだ。だけど、浮かんだ時はもうすでに、彼は眉を寄せ、後ろ髪を引かれるようにゆっくり私の横を通り過ぎていった。
後ろを振り返ってみれば見える小さな背中。その背中に大きな何かが乗っかっているように見えて。私は何も言えなかったことに今更ながら悔やんだ。
追いかける勇気も結局出ず、私はそのまま稲妻総合病院を後にした―…。
次君に会うときこそ
また、そのような瞳をしているのならば、支えたいと瞬間的に感じた…。
壊れそうなその身体を―…。
to be continued...
(2017.11.15)
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