もう一つの知らせ (90/109)



きっと瞳子監督が配慮してくれたんだろう。フットボールフロンティアスタジアムを抜けるとそこにはタクシーがあった。
恐らく走ってきたことを察した瞳子監督が用意してくれたんだと悟る。その瞳子監督の気遣いに感謝しながらも甘えさせてもらうことにした。

10分ほどして着いたのは雷門中。そこで練習している彼らを見て、1つ深呼吸した。


「あ、朝比奈…おかえり。遅かったな」
「どこ行ってたんだよ…心配したんだぞ?」
「えへへ、ごめんなさい…。応援しに、行ってて…」
「応援?」


私が雷門中に帰ると自然と出来る円。私は少し躊躇いながらも今日のことを話した。

彼らと会ったこと以外は…。

もちろん試合自体は全然見ていなかったため話すことは出来なかったが、今後に関して私の推測を話しておいた。


「もしかするとね、円堂くんたちここに帰って来てるし、しばらくの間雷門中で練習をしていくことになるかもしれない」

「っ……」

私はそう言葉を紡ぐとチラリと彼を見た。案の定視線は交わらない。青髪を揺らし俯いたままだった。

そう、私の推測は、円堂くんたちはこのままここで練習していくことになる、ということ。とならば彼らとの接触が少なからずあるということ。

彼らと一番会いたくないのはそう、風丸くんだ。だから定かではないにしろ、もしかするとということを先に話しておいた。

避けているというわけではないつもり。だが、風丸くんのことを思うとどうしても彼らと会わせることに躊躇いを感じてしまう私がいた。

ぎゅっと眉を寄せ、彼を見つめて様子を伺っていた時だった。


「俺はグラウンド、譲ってもいいよ」

他方から違う声が聞こえた。その声のする方を見ればにっと笑みを浮かべている。


「俺さ、まだ弱いし、必殺技だって微妙だし…だからなんていうかその……そう!もっと強くなってから会いたいんだ!円堂たちに!」

「半田くん…」

若干無理やりさが残っているが半田くんはそう言った。風丸くんを思ってそう言ったのか、はたまた本当にそう思ってなのか。半田くんの真意までは分からなかったが、私はゆっくり頬を緩ませた。


「賛成賛成ー!僕ももっと強くなってから会いたいな!驚かせてやりたいし!」
「俺もです!」

「みんな…」


本当にみんなの優しさには感謝する。その言葉に風丸くんも確かに頬を緩めていた。私の視線に気付いたのか苦笑いする。私も返しておいた。


それから少し練習を続け、いつもよりも早く練習を終えた。

時計はいつも部活を終える時間よりも前を示している。もうみんなはすでに帰っていてここにはいない。

私はというと雷門中の門の前に立ってみんなの帰りを待っていた。


今日、早く部活を切り上げたのは彼らとの接触を避けるためだった。案の定、夕方まだ辺りが暗くなる前、彼らはこの雷門中にやってきた。

久しぶりに見る青色の車体が雷門中前で止まった。私は俯いていた視線を上げ、その車体を見上げる。


「みんな、明日からは新しい体制で練習よ」
「おぉ」

「よーし、それじゃ家に来い!みんなまとめて泊まってくれ」

「おぉ太っ腹、世話になるぜ。吹雪、ぼーっとしてねーでお前も来い来い」
「…うん」


ドアが開くとそんな彼らの声が聞こえた。円堂くんを始めとする雷門イレブンがゾロゾロとイナズマキャラバンから降りてくる。


「あ、楓香!どうしたんだよこんなところで…」
「円堂くん…」

円堂くんは私の存在に気がつくと、こちらに向かって走ってきた。それを私は笑顔で迎える。


「円堂くんたち…雷門中で練習、していくんでしょ?」
「あぁ!今日はもう終わりだけど明日から練習する!…あれ、もしかしてダメだった?」

円堂くんは楽しそうに話した後、急に頭にハテナを浮かべた。それに私はふるふると首を横に振る。


「ううん、大丈夫。だろうと思った!グラウンドは使って!みんなには許可取ってあるから!」

「あ…そっか…。半田たちが練習してたのか…なんかごめんな」

「大丈夫だよ、気にしないで思いっきり練習して!」

時折円堂くんと連絡を取っていたから彼らがもう退院していることは知っている。

今日の試合、勝ったとしてもまだ続く、そんな気がしていたから私はそう推測していた。実際、聞いた話では引き分けだったようだけれども。


「あ、そうだ!今日俺の家でバーベキューするんだ!楓香も来るか?」

「え…あ…私、ちょっと寄りたいところがあるから考えておくね!ありがとう!」

「分かった!いつでも来ていいからなー」

「ありがと!バイバーイ」

円堂くんはそう言うと私の横を走り去っていった。新たな仲間を引き連れて…。

私はその光景に目を細めながら見つめると静かに笑った。


今日の部活は早く終わった。少し時間を持て余している。

私は久々にその時間を利用して行きたい場所があった。


私はその場所へ向かうべく、円堂くんたちに背を向けて歩き出した…。




もう一つの知らせ


"もうすぐで退院なんだ"

その知らせを聞いていた私は、少し胸を弾ませながらそこに向かっていた―…。


to be continued...
(2017.11.15)

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