読めない意図を胸に (89/109)
【一之瀬視点】
俺は瞳子監督を許せなかった。確かに楓香に特別な想いを抱いているからとはいえ、誰でもあの言い方はないんじゃないかと感じると思う。
せっかく楓香が応援に来てくれたんだ。なのに5分も経たずに追い返してしまうなんて。
そしてそんな思いと同時に俺はガゼルが言ったことを思い出した。
『あの女、雷門のもう一人のマネージャーにもここに来るよう言った。おそらく後半くらいには来るだろう。せいぜい無様な姿を見せないよう頑張るんだな…』
楓香がここに来たことでガゼルの言っていたことは正しかったと推測出来る。
そして、あの時は荒れていたから気付けなかったが、ガゼルの言い方からすると一度楓香と会ったことが予想される。
楓香が無事だったことに安堵したが、少なからず不安は残る。
しばらく重い空気が流れたが、瞳子監督の指示によってその空気はまた別のものに変わった。
俺はぎゅっと歯を食いしばったがどうしようも出来ないゆえ、半円に戻っていった。
絶対にこの試合に勝たなければ。そう心の隅で思った。
「一之瀬!焦らず行こうぜ!」
「円堂…」
「瞳子監督なら無意味に押し返すはずはない。何か意味があるんだ!楓香のためにも勝とうぜ、絶対!」
「あ、あぁ!」
そうだな。楓香のためにも絶対に勝たなくちゃ。
きっと暗い顔をしていた俺を気遣って言ってくれたんだろうと思う。監督からの指示が終わると円堂はぽんぽんと俺の背中を叩き自分の立ち位置へと走っていった。
俺もその背中を見ると、試合すべく自分の立ち位置へと向かった。
迎えた後半。試合再開のホイッスルが鳴り響く。
俺はだんだん小さくなっていくその背中に目を細めると意識を試合に戻した。
読めない意図を胸に
俺は、ただひたすら勝つために試合に挑んだ―…。
to be continued...
(2014.5.31)
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