その先に見えた未来 (88/109)
私は反対側のベンチを目指してまた薄暗い道を進む。先ほどのバーンとのやりとりはやはり気掛かりだが、今の私にはどうすることも出来ない。
ようやく外の明かりが目に入って来た頃、聞き覚えのある声がいくつか聞こえてきたことに不思議と安堵する。私は頬を緩ませながら外の世界に飛び込むとベンチの周りにいるみんなに駆け寄った。
「円堂くん!」
「え…楓香…!?」
「楓香ッ」
私はベンチを中心に半円になっている場所を目掛けて足を進める。円堂くんは私の存在に気付いたようでその半円から抜けると私の前に来てくれた。それに合わせて一之瀬くんも来てくれる。
「楓香…来てくれたんだな」
「うん…」
「大丈夫だったか?」
「う…うん!」
どうやら私を知らない新たなメンバーはハテナを浮かべている。それも無理はない。私はテレビ中継でみんなの存在を知っているものの、みんなが私を知るはずはない。何人か染岡くんの離脱時に直接見たことがあるが、それ以外のメンバーを実際に目にするは今日が初めてだ。挨拶代わりに私はぺこりと一礼した。
「朝比奈さん…」
すると今度は瞳子監督が私の前に歩み寄ってきた。瞳子監督は眉を割り、じっと私を見つめる。
確か前にもあったような気がする、と思いながらも首を傾げているとようやく瞳子監督は口を開けた。
「あなたは帰りなさい」
「えっ…」
"帰りなさい"
その言葉が木霊のように頭に鳴り響く。
まただ、また帰れと言われた。バーンの次には瞳子監督。いったいなぜだろう。どうせなら近くで応援したいと思って来たのに、なぜみんなそう言うのだろう。少なからず寂しさが募った。
「そんなっ…なぜですか監督!楓香がせっかく来てくれたのにっ…!」
「一之瀬くん…」
一之瀬くんは私を思ってそう反発してくれたが、監督の性格上、意志を曲げることはないだろう。私はしゅんと視線を落とした。
「ダメよ、認めません。これは監督命令です」
「そんな…」
見届けたかった。だけどもうそれも無理なのだ。私は歯を食いしばりぎゅっと身体の横で握り拳を固めた。
私はずっと雷門に残っていたから今更応援されても迷惑、ということなのだろうか。
もし、選手の邪魔になるのならばそれも仕方ないことなのかもしれない。やっぱり、迷惑をかけるようなことはしたくない。
これは監督命令。逆らってはいけない。
「はい…分かりました…」
「楓香っ…」
「ごめんね、一之瀬くん、円堂くん…」
私はこれ以上みんなに心配をかけまいと笑顔を振りまく。そして半円に背を向け、つい先ほど来た道をゆっくり引き返していった。
「あなたを、あの人たちに会わせるわけにはいかないの」
「っ…!」
ふいに横から聞こえた優しく囁くような声。ぱっと立ち止まり横を見れば緑掛かった髪。視線が交わることはない。
恐らく聞こえたのは私だけだろう。その台詞に目を見開ける。そしてこくりと小さく頷くとまた、ゆっくり歩き出した。
「さぁ雷門中対ダイヤモンドダスト。後半も行き詰まる攻防が続いているー…」
だんだん小さくなっていく解説。もうみんなはピッチに立ってダイヤモンドダストと試合をしている。
名残惜しくもその会場をあとにすると私は雷門中に足を向けた―…。
その先に見えた未来
監督も私を思ってそう指示をしていたなんて、今の私に分かるはずもなかった―…。
だけど、確かに瞳子監督の温かさを感じた瞬間だった…。
to be continued...
遅くなり申し訳ありません。もう少しお待ちくださいませ。
(2014.4.20)
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