片道の記憶と私 (87/109)
「ハァ…ハァ…」
全力で走ってきてようやくたどり着いたこの場所。フットボールフロンティアスタジアム。
私はこの大きなスタジアムの前で立ち、ゆっくり見上げると意を決して中に入っていった。
雷門に残っているみんなには敢えて言わなかった。何か嫌なことがありそうで、なぜかみんなに言うことは出来なかった。
気のせいかもしれないけれど、私は何かこの試合に関係するのではないかと察した。私だけのことでみんなを巻き込むようなことはしたくない。だから私は言わなかった。
薄暗くコートに続くこの道を走っていたその時。ふと聞こえた声に私は立ち止まりとっさに壁に隠れた。
「互角ってのは恥ずかしいんじゃねぇの?」
初めて聞くその声。おそらく私の知っている限りの雷門中のみんなの声ではない。不思議にもドクドクと心臓が跳ね上がっていくとその声に続き新たな声も聞こえる。
「勝てるよね、円堂くんに」
また、ドクンと大きく跳ね上がった。よく分からないこの鼓動。あの場所でガゼルと出会った時のように冷や汗が流れた。
「私は負けない。ダイヤモンドダストの名にかけて」
ガゼルだ。ようやくここに来て聞き覚えのある声が聞こえた。
どうやら私は来る方向を間違ってしまったらしい。運悪くこちらの道は敵のベンチに近い道みたい。
この道を選んだことに後悔しながらもバレないよう荒れる呼吸を必死に抑えた。
だが、しばらく声が聞こえなかったと思うと、コツンコツンと誰かの足音が響いてきた。2つの足音だった。しかしすぐその足音は消える。
「どうしたバーン。早く行かないと後半が始まるよ」
「わーってるよ。悪ぃ、先行っててくんねーか」
止まったかと思うと再び聞こえてくる足音。しかし1つの足音はだんだん大きくなっている気がした。
バレる。とっさにそう脳裏に浮かんだ。
だが、逃げようとするももう既に時は遅かった。
「おい」
「っ…」
私はその鋭い声にピクリと肩を震わせるが止まらざるを得なかった。冷や汗が額から1つ頬を伝って落ちるとその声はもうすぐそこまで来ていた。
「お前…まさか雷門中か」
「っ…!」
もうきっと逃れることは出来まい。意を決してゆっくり後ろを振り返った。
「っ…お前…」
だが、驚いたのは彼のほうだった。真っ赤な髪に黄土色の瞳を見開かせそこに立っていた。
「お前…どっかで会ったことねぇか…?」
「えっ…?」
突然の彼の台詞に私は目を見開かざるを得なかった。
ジロジロとその彼は私を見てくる。先ほど聞こえた話によると恐らく彼はバーンという人物だろう。
バーンは眉を割りながら見てくるので若干仰け反る私。どうにかしてこの状況を打破したかったがどうにもいい方法は浮かばなかった。
どこかで会ったことないか、バーンはそう言うがはっきり言えば私は何も分からなかった。それどころか心の霧が濃くなるばかり。
「あ…あの…」
バーンは結局最後まで分からなかったようで口をへの字にさせるとようやく後ろに下がっていった。
視線を落とし、頭を掻くと再び真っ直ぐ私を見据えて今度は真剣な眼差しでこう言った。
「気のせいか…。けどお前は帰れ」
「え?」
「何となく、何となくだがここにいちゃいけねぇ気がする」
「どういう…」
「知らねぇよ、感覚だ!」
「そんな…」
私はガゼルにここに来るよう言われた。だけどバーンには帰れと言われた。
仲間のはずだろう。単なる意見の食い違いかと思ったが最終的な答えは見つからない。
「まぁいい。じゃあな」
バーンは無愛想にもそう言い放つと私に背を向けて歩き出した。そして肩まで手を上げると角を曲がって静かに姿を消した。
いったい、なんだったんだろう…。
私には分からない。だけどここまで来たんだ。彼らを見届けたい。
私は反対側のベンチを目指して再び走り出した…。
片道の記憶と私
片道じゃなくなるのは、もう少し先の話だった―…。
to be continued...
バーンのターンでした。だんだんごちゃごちゃとしてきましたが…エイリア篇、我ながら楽しんで執筆しております(笑)
(2014.4.20)
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