靡く髪に一つの意図 (85/109)
「っ…ガゼ、ル…」
一途の風が2人の髪を揺らす。驚くほどゆっくり流れるこの時に私は一粒の冷や汗を流した。
しばらく続く沈黙。この沈黙を破ったのはガゼルだった。
「雷門中の奴だな…。今日は話があって来た」
「はな、し…?」
ガゼル、ダイヤモンドダストのキャプテンである彼がこの初対面の私に何の話があるというのだろうか。
全く話の意図が見えない。そもそもなぜ彼がこんな場所にいるんだろうか。
幾つもの疑問が頭を渦巻く。冷や汗はいつまで経っても留まることはない。
それでもガゼルは揺るがず真っ直ぐと私を見据えたままだった。
そしてこの後私は衝撃なことを聞くことになる。
「今から私たち、ダイヤモンドダストはフットボールフロンティアスタジアムにて雷門中と試合をする」
「円堂くんたちと…!?」
「今すぐ私たちはそちらに向かう。来るか来ないかは君次第だ…」
「っ……」
何を、言っているの…?
なぜ、わざわざ私にそんなことを言うの?
ガゼルの意図が全く読めない。ガゼルは、私とは何も関係ないはず、なのに…。
いずれ円堂くんたちとダイヤモンドダストが試合することは分かっていた。きっと円堂くんたちは練習を積んで彼らに挑む、そして勝つ、と。
だが、こんな早く戦うことになるなんて誰が予想しただろうか。
その事実に私は目を見開くことしか出来なかった。
ガゼルはそれだけ言うと私に背を向けて二三歩歩いた。
その瞬間彼の周りには青黒い霧が渦巻く。
そして、彼はゆっくり顔だけ振り返らせると、小さく含み笑いをした。
「待っているよ…朝比奈楓香…」
「っ…!」
さっと黒い霧と同時に消えた彼の影。そこはまるで最初から誰もいなかったようにただ漠然とグラウンドが広がっていた。
最後に感じたのは謎の違和感。ゾクッと背筋が張り付いたと同時に、なぜか名前を呼ばれたのは初めてじゃない気がした。
なぜ、名乗ってもいないのに私の名前を知っているの?
なぜ、笑いながら去っていくの?
だけど、最終的に感じるのはそんなことばかり。結局私に分かることなんて一つもないのだ。
そう、今私に出来ることは、この目で直接確かめることしかない。ここからフットボールフロンティアスタジアムまでは結構距離はあるが行けないわけではない。頑張って走っていけばきっと後半には間に合うはず。
そう決まれば自然と動く私の足。無意識に私はフットボールフロンティアスタジアムへ向かっていた―…。
靡く髪に一つの意図
行ったら分かるだろうか。
この、モヤモヤの意味を―…。
to be continued...
(2014.3.15)
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