動き出した歯車 (82/109)



完成して嬉しさの余り抱きついた私たち。温かくって心地よい。ふと我に返ってすぐに離れたけれど。

だけど、私は純粋に嬉しかった。完成したこと、そして、半田くんの言葉が…。


「じゃあこれは…俺の、俺たちの必殺技だな!」


「…半田くん……。うん、うんっ!」


私の、私たちの必殺技。2人で築き上げた必殺技。

それが嬉しくて嬉しくて、つい涙が溢れそうになった。だけど、私は涙を堪えた。この涙は、取っておこうと思った。


私は笑いあってこの幸せを身で感じていた時、私はふと思い出したことがあった。鞄を開きあるものを取り出す。


「そういえば半田くん、コレ…」

「っ…コレ…!探してて…」

「あの日、落としていったモノ。耳が取れかけてたから直しておいたからね。あとボールも、はい!」

「っ……朝比奈、ありがとう…」


あの日、半田くんが河川敷を飛び出していったあの日。置いていった半田くんのサッカーボールと、落としていったあのマスコット。

半田くんが去ったあと、私はそれらを拾った。取れかけていた耳を直し、いつでも渡せるようにとずっと持っていた。そして今日、ようやくそれを果たした。


ありがとうと満面の笑みで言ってくれたことが嬉しくて、私も一緒に笑った。



――――――――……


そして次の日。私たちはいつもの関係に戻ることが出来た。


「あ、おはよう」

「お…おはよう朝比奈」
「おっ…おっ!?」
「マックスも、おはよう」

マックスは私たちを交互に見て何やら含み笑いをしている様子。マックスは半田くんに横からチョップされていた。マックスはもろともしていなかったけど。


「マックス…顔おかしい」
「だってさ!ね、半田!良かったね」
「ん…うん…」

マックスも喧嘩していたことに気付いていたのか、なんて思うが、夜道で半田くんと会った時そこにマックスも居合わせていたので分かるかなんて自己判断する。私は苦笑を浮かべておいた。


着替え終えて練習に入った。いつも通り、グラウンドにみんなが立つ。


「そういえばマックス」
「ん?」

「俺、完成したんだ!ローリングキック」

「………えぇ!?」

少し間を空けたマックスは目を見開けてそう驚く。へへんとでも言わんばかりに半田くんは胸を張っていた。

その様子に気付いた周りのみんなも2人の元に集まる。いよいよお披露目というところだろうか。それに少しばかり私も照れくさくなった。



「よしっ…」


半田くんはボールを手にすると、昨日と同様ゴールとボールの焦点を合わせて足元に置いた。そして二三歩下がってローリングキックを発動させた。

上手くいったかのように見えた。だけどそのボールは惜しくもゴールポストに当たり跳ね返ってきた。


「あ、れ…」

半田くんは「あははは」と濁しながら苦笑する。どうやらタイミングが合わなかったらしく、今回は失敗に終わってしまった。しんと静まり返るこの場に居たたまれなくなってしまったのであろう、あたふたと半田くんは慌て始めた。


「えっと…その…い、今は発展途上…ということで……ははは…」

半田くんがそう言ってもなお、この静けさは変わらない。さすがにこの場をどうにかしなければ、と羞恥心にまみれる半田くんをフォローしようと口を開けようとした時。ワァと辺りが一斉に感嘆の声を漏らした。


「すごいよ半田!てっきりもっとショボいのかと思ってさ、僕若干ナメてたよ!」

「すごいです半田さん!外してますけどあの威力!びっくりしました!」

「これでもっと磨けばなかなか強力な技になるよ、半田!」


ワイワイと騒ぎ出す周りのみんな。そんな中、当の本人である半田くんと私はぽかんとついていけずにいた。何が起きているんだろうとハテナを浮かべるも半田くんと目が合ったので苦笑を貼っておいた。

良かったね…。ふいにそんな感情が沸き起こって来て、私は1人ふふっと微笑んだ―…。


ふと視線を感じたので視線を横に向けると風丸くんと目が合った。風丸くんは爽やかな笑みを浮かべると口パクで「よかったな」と言ってくれた。嬉しくて、嬉しくて、自然と頬が緩む。

風丸くんもずっと支えてくれた、半田くんと仲直りするために。こうして半田くんと仲直り出来たのも風丸くんの支えがあったからだと思う。本当に感謝している。

そしてそんな感情と同時に私は早く練習をしたくてたまらなくなった。



「よし!みんな、練習再開ー!」

「「おぉー!」」


もっともっと練習して、みんなに言おうね…。

強く、なったよって―…。




動き出した歯車


そう、私はまだ気付いていなかった…。

白く、純粋なその彼らの心が、黒く深い闇に染められていくなんて―…。


動き出した歯車は、連動して他の歯車をも動かしていた…。


end. 第三章
next. 第四章

いや、すいません。ホントすいません。
ということでローリングキック完成です!!ただ、半田くんに必殺技を作らせたかった…だけです、はい。←

取り敢えず忙しさは一端去りましたので…更新していけたらなと思っています、うん思ってます…。

(2013.12.11)

[bkm]

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