俺の、俺たちの必殺技 (81/109)
【半田視点】
河川敷に戻った俺はボールを拾い上げる。そしてゴールを見つめるとゆっくりボールを足元に置いた。
ガッと蹴り上げて自分自身も飛び上がり半回転。そして勢いを付けたまま俺はボールを蹴り込む。
「ローリング、キックッ!」
しかし、ガコンと音を鳴らしゴールポストに当たって跳ね返ってきた。ストンと着地するもゴールを割れなかったことに小さく舌打ちをした。
手応えはある。確かに昨日よりも、さっきよりも出来た気はした。だけどどうにもここから先へは進めなかった。
「半田くん…」
「…?」
額から出た汗をユニフォームで拭うとゆっくり朝比奈が近付いてきた。そして眉を割りながらもそっと微笑むと次は真剣な表情に移し、言葉を紡いだ。
「ローリングキックに重要なのは…タイミング、キック力、高さ、は知ってるんだよね…?」
「あぁ…」
前のと比べると随分安定してるもんね!とニコニコ笑みを浮かべる朝比奈。そう、俺は朝比奈のトレーニングメニューをこなすようになって上記のことは随分上達したと思っている。
タイミングだって載ってなかったにしろ、だいぶコツを掴んでだんだん合ってきていた。
それでも頭にハテナを浮かべていると、朝比奈は何か確信したような、ちょっぴり口角を上げると真っ直ぐ俺を見据えた。
「それでね、最も重要なのは…"回転"なの」
「回転?」
「私が拾った方の紙に回転が書いてあったんだけどねっ…。回転を増やすことによってより力を溜めてボールに打ち込むことが出来ると思うの。タイミングを合わせるのは大変なんだけど、ね…」
苦笑いを浮かべる朝比奈を見つめた後、俺は再びボールを手にしてゴールを見据えた。
「俺、やってみるよ…」
「うん!」
すぅと深呼吸をして、俺はボールを蹴り上げるといつも以上に回転した。グルグルと揺れ動く視界の中、ボールを捕らえると俺はそのボールを蹴り込もうとする。しかし、バランスを崩した俺はそのまま地面に叩きつけられた。
「ってて…やっぱりタイミング合わせるの難しいな…」
「うん…大丈夫?立てる?」
「あぁ」
俺は朝比奈の手を借りて立ち上がるとポンポンと砂埃を払い顔を上げた。朝比奈が差し出してくれたボールを手にするともう一度ゴールを見つめる。
「今の半田くんのジャンプ力なら…きっとタイミングを合わせられると思う。助走をつけてみたら…?」
「助走…?あぁ、分かった!」
俺はボールを足元に置くと何歩か後ろへ退く。そしてボールとゴールに焦点を合わせるとゆっくり走り出した。
ガッと蹴り上げてボールを宙へ上げる。そして思いっきり踏ん張って地面を蹴って飛び上がる。そしてまた、先ほどのように回転した。
今度こそは確実に捕らえた。
「いっけぇぇぇ!!」
足首に力を込め、回転により貯めた力を思いっきりボールに打ち込んだ。
そのボールは風を切って威力を増したまま真っ直ぐゴール目掛けて走っていった。
―バシュッ
ネットが大きく揺れ、ゴールを割る音と同時に地面に着地すると俺はゆっくり目を見開けた。
でき、た…?
今、確かに……。
「出来た……出来たよ朝比奈!!」
「うんっ、うんっ!出来た、出来たね半田くん!」
「あぁ!」
俺は心底喜んだ。ついに出来たんだ、俺だけの必殺技が!
喜びの余り自我も忘れて俺らは抱き合う。
「ありがとう、ありがとう朝比奈…」
「ううん…頑張ったのは半田くん自身だよ…」
ぎゅっと腕に力を込める。朝比奈の温もりが温かくて安心する。
だけど、よくよく今の現状を思い出した俺、いや俺らははっと我に返ると思いっきり仰け反った。
「っ…ごめん…」
「私こそ…ごめんなさい…」
いきなり抱きついてしまうなんてやっぱり戸惑うのも無理はない。恥ずかしさの余り俺は俯きながら頭を掻いた。
だけど、必殺技が完成した喜びはいつまで経っても消えなくて、俺はゆっくり口角を上げると顔を上げた。
「朝比奈…本当にありがとう。完成出来たのは朝比奈のおかげだよ…」
「ううんっ…やったのは半田くんだもん!」
ニコニコといつもの柔らかい笑みを浮かべる朝比奈。そんな朝比奈を見て俺もゆっくり頬を緩ませた。
「じゃあこれは…俺の、俺たちの必殺技だな!」
「…半田くん……。うん、うんっ!」
いつも以上に花を開かせる朝比奈の笑顔を見て、俺もまた安堵した。
仲直りも出来て、こうしてローリングキックも完成出来て。はっきり言えばそれは、一種の誓いだった。
もう、手離さない、と…。
俺の、俺たちの必殺技
だけど、まさかこの言葉が、この誓いが、彼女を傷付けることになるなんて、まだ俺は知らない。
運命の時間は、刻々と近づいていた―…。
to be continued...
実はこれが重要だったり…(笑)
ローリングキック完成です!!そして久々すみません!もう1話どうぞ!!
(2013.12.11)
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