夕暮れ空に伸びる影 (80/109)
【半田視点】
「ごめん…」
全てが無意識だった。朝比奈を追いかけたことも、こうして発した言葉も…。
俺はただひたすら完成させるべく河川敷でローリングキックの練習をしていた。朝比奈の練習メニューをこなして。
さすがというべきなんだろう。その朝比奈の練習メニューをこなすと妙に身体が軽く感じて、昨日よりも今日、今日よりも明日とみるみるうちに成長している気がした。
そして今日、あの一本。ついにその成果は形となってボールに表れた。
あの放たれたボールは惜しくもゴールポストに当たり、ゴールを割ることは出来なかった。だけど、今まで以上の手応えを感じた。なぜだかは分からない。だけど、今までとは何かが違った。
そのシュートに驚きつつもパッと顔を上げてみれば交わる視線。そう、顔を上げたそこにいたのは朝比奈だった。
朝比奈は俺の顔を見るなり別方向へと走っていく。だけど無意識に走った俺は朝比奈の背中を追いかけていた。
気づけば右手には朝比奈の右手。そして今に至る。
無意識だったんだ。全てが。本当は謝る勇気なんて持ち合わせていない。生憎俺はいつまでたっても臆病者だから。自分で言って自分で驚いているくらいなんだ。
でも、もうここまで来たら引き返すことは出来ない。俺はすぅと空気を吸うと真っ直ぐ前を見つめた。
交わる視線。そして俺はもう一度、言葉を紡いだ。
「ごめん…。俺、ついかっとなっちゃって…その…」
「っ…うぅっ…」
朝比奈の涙に妙に胸の奥がツンとする。それでも俺は言葉を遮ることはしなかった。
ただ、真っ直ぐ前だけを見つめて言葉を発した。
「本当に、ごめん…」
「半田、くん…っ…」
朝比奈は俺の名前を囁くとぎゅっと胸の中に飛び込んできた。もちろん俺はびっくりすることしか出来なかった。だけど状況を理解して、震えながらも、そっと朝比奈の背中に腕を回した。
「半田くん…ごめん、なさい…」
「朝比奈…」
それは、"仲直り"が出来た瞬間だった―…。
嬉しくて、嬉しくて、泣きそうになった。だけど俺は泣かないって決めた。俺が泣いてどうするんだ。
ぎゅっと歯を食いしばると朝比奈を抱きしめる腕を強めた。
「もうすぐ、もうすぐでローリングキックが完成しそうなんだ…」
「っ…。半田くん…」
「だから、手伝ってほしい。こっから先は一緒にやりたい」
「……うん」
俺と朝比奈は顔を見合わせるとゆっくり笑って再び河川敷に足を進めた。
もう一度、朝比奈と一緒にやる。
そして、今度こそは絶対に完成させるんだ―…。
そう強く心で唱えると俺は少し、足を速めた…。
夕暮れ空に伸びる影
遠かった2つの影は、ゆっくり、ゆっくり交わっていく―…。
to be continued...
仲直り、ようやくいたしました。大変お待たせしました。
さてさて、次はローリングキック完成に向けてね、と言っても次くらいで終われると思いますけどね!
2013.9.20
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