仲直りのシンフォニー (79/109)



そして翌日。気分を暗くしながらも私は雷門中へと向かった。

やっぱり、半田くんとはいつまで経っても気まずい関係のままだった。何度か目があった時はあるけれども、結局話しかけられずチャンスを逃してしまう。そんな調子で今日1日を無駄にしてしまった。

私はマネージャーの仕事をこなしながら1つ、深いため息をついた。


どうしたら仲直り出来るんだろう、そう思いながらも私は1人でいつもの場所へ向かった。

近づくにつれ、大きくなるボールの音。

今日も、半田くんはローリングキックの練習をしていた。


本当だったら、あの場所には私もいた。半田くんと2人で完成を目指して練習していた。完成させるために、練習メニューだって考えた。でもそれは意味を為していない。

私はぎゅっと身体の横で握り拳を固めた。



「ローリング…キック!」


彼の声が河川敷に響く。今すぐにでも側にいきたい衝動に駆られる。だけど、私の足は動かない。ピクリとして前へは進めない。

私は歯を食いしばって彼の頑張っている姿を影で見守ることしか出来なかった。次の日も、またその次の日も。

仲直りは出来ずそんなような日が何日か続いた。


半田くんの身体はもうボロボロ。前よりもずっと傷ついていた。失敗して倒れても、どんなに上手くいかなくても、半田くんは立ち上がった。

泣きそうになった。そんなボロボロな身体なのに、立ち上がって、練習を続けて。何が彼を動かすのか、私には分からない。

だけど、私は見守った。逸らしてはいけない気がして、傷ついている彼をひたすら見つめた。


そしてそんなある日。


ついに、彼の努力がボールに表れた。



「ローリング…キックッ!」

「っ…!」


ゴールポストに当たりバコンという音を鳴らしてそのボールは跳ね返ってきた。

でも今確かに、回転の威力をためたままゴールに向かって飛んでいった。

きっと半田くんは何か手応えを感じたのだろう、ゴールポストを見つめたままじっと動かなかった。

私は目をキラキラと輝かせた。嬉しかった。ついに、ついに、完成の光が見え始めたことに。もう少し、もう少しで完成する。

そう思った私は、隠れていたことも忘れて、知らないうちに身を乗り出していていた。


しまったと思った頃にはもうすでに遅い。


一瞬だけ、私と彼の世界の時が止まった気がした。バチリと交わった視線はしっかりとお互いを捕らえている。

丸く開かれたその瞳を見た私は顔を真っ赤にせざるを得なくて。バクバクと跳ね上がる鼓動を感じた時、ようやく我に返った。



「っ……」


「っ!朝比奈ッ!」


私は一目散に走った。

私は彼とは会ってはいけない。邪魔だから。彼からとったら私は迷惑以外の何者でもない。


だけど、やっぱり男の子と女の子の身体では作りが全然違うようで。あっという間に追いつかれてしまった。



「朝比奈ッ……」

「…っ……」


私は俯いた顔を上げることが出来ない。掴まれた右手を振り払うことすら出来なくて、自分の弱さを身を挺して感じた。

心拍数は半田くんに聞こえてしまいそうなくらいドクドクと跳ね上がっている。

荒い呼吸を続ける半田くんはぎゅっと掴んでいる右手に力を込めた。



「朝比奈……」


私は出そうな言葉を堪え、ぎゅっと歯を食いしばった。


怖い。

私は怖かった。次どんな言葉が半田くんから飛び出すのかと。

怖くて何も出来ない。ただ、聞こえるのは半田くんの呼吸音と風の音だけ。妙にゆっくり時が進んでいるような気がして、私は静かに眉を寄せた。


でも、次に半田くんの口から出た言葉に私はただただ無意識に振り返ってしまったんだ…。



「ごめん…」


その瞬間、私の目に溜まっていた雫は頬を伝って地面に落ちた―…。




仲直りのシンフォニー


やっと、やっと、見えたね―…。


to be continued...

ようやく来たー!笑
ようやく仲直りの前兆です、ということでもう1話どうぞ。

2013.9.20

[bkm]

 [prev]│[next

 (back)



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -