真っ暗闇に映る影 (77/109)

【半田視点】


帰途の途中、俺はマックスと他愛もない会話をしながら暗い道を歩いていた。

もう日は完全に暮れた。真っ暗闇の中で見えるのは隣にいるマックスの影と前方に伸びる数メートルの道しかなかった。所々道を照らす街灯でようやく人の顔が認識できるくらい。

そんな中、俺たちはそれぞれの家を目指してひたすら帰路を歩いていた。

そして、朝比奈の家から数分くらい経った時のこと。突然俺たちにある出来事が起きた。

俺が道路の内側にいたことが不幸だったのかそれとも幸運だったのかは分からない。だけどそれ以外のことで、辺りが暗くて周りが見えなかったこともソレが起きた要因の1つだったと思う。


突然肩に強い衝撃を受けたと思ったら甲高い小さな悲鳴。


「きゃっ…」

「あっ…、すみませ…っ!」


ドンという音と共に小柄な影が地面に落ちていくのが見えた。それと同時にパラパラと幾つかの紙が落ちていく。

俺は多少衝撃を受けただけだったから良かったものの、相手を倒してしまった上、持っていた紙を落とさせてしまったことに慌ただしくも謝罪の言葉を漏らす。そしてしゃがみ込みその散らばった紙を拾った。

だけど、よくよくその甲高い声を思い出して、俺の中の記憶を辿っていくと俺はピクリと手を止めた。

そして顔を上げてみれば同じ高さにあるその顔に俺は言葉を失った。



「半田…くん…っ…」

「朝比奈っ…」


そう、その倒れた主、それは朝比奈だった。暗いこともあり、慌ただしく走ってきている朝比奈に俺たちはすぐに反応することが出来なかった。

朝比奈はゆっくり歩いてきていた俺たちの存在に気付けなかったんだろう、勢いがあるままぶつかってしまった、という始末。


どうして、朝比奈がこんな時間にここにいるんだろう…。

後々からそんな疑問が頭に浮かんできた。こんな時間まで何をしていたのだろうか、と。もちろん答えなんて見つかるはずもなかった。


「っ……」

俺と同様言葉を失ったのだろう朝比奈は口をパクパクさせては閉じて、そして最終的にはぎゅっと口を結ぶと勢いよく立ち上がった。そして間もなく幾つかの紙を残したまま、避けるように走り去ってしまった。


「朝比奈ッ!」

そう呼んでも彼女が止まることはなかった。俺は眉を寄せ、自分の不甲斐なさに後悔しつつも1つチッと舌打ちを漏らした。


「ホントに喧嘩してたんだね…」

「マックス、それは言わないでくれよ…」

俺は続けてハァとため息をつくと、地面に残っている幾つかの落ちた紙を拾い上げた。

そして目を細めつつも遠くにある街灯を利用してその紙に目を通した。


「コレ…ッ!」

「ん…?」


真っ暗でほとんど見えなかったけれど、微かに見えた部分を見て俺はさらに言葉を失ってしまった。


【ボールを蹴り上げ自分もジャンプ。空中で身体を回転させ、そこで溜めた威力をそのままボールに移す。
ボールの威力を上げるにはタイミングとキック力そして高さが重要になってくる。】


その内容に俺の胸はドクンと大きく跳ね上がる。そしてその一番上を見てみると俺は目を大きく見開けた。


【ローリングキック 練習法】


丁寧らしさから恐らくこれは朝比奈の字だと思う。朝比奈は、わざわざ俺のためにローリングキックの練習方法を考えてきてくれた。そう察すると俺はバッと後ろを振り返った。でもそこにはもう朝比奈の姿はない。

俺は顔を戻すと落ちているもう一枚の紙に目を移した。


キック力を増大させるトレーニング方法、ジャンプ力を上げるトレーニング方法。朝比奈なりに調べて、ローリングキックを完成させるためにこうして紙に書いてきてくれたんだ。

No.1、No.2ということはきっとNo.3…と続いているんだろう。俺の手元にはNo.1と2しかない。タイミングを合わせる方法が載っていないことから、きっとNo.3もあるんだと思う。


俺はきっと眉尻を吊り上げ、顔を上げると同時に立ち上がった。


「マックス…」


俺、決めた。


「もう一度、頑張ってみる」



もう、絶対諦めてたまるもんか。

絶対、絶対完成させてやるんだ。



「マックス、俺用事出来た!ちょっと行ってくる」

「んー…。行ってらっしゃい…ってそっち!?朝比奈の所じゃないの?」

「おー!ちょっと練習してくる」


練習、あるのみ。タイミングも練習積み重ねて見つけてみせる。

いまはまだ朝比奈とは気まずい関係で、勇気のない俺には仲直りすることはきっと出来ない。

でも、これを完成させて、胸張って朝比奈に「出来たよ!」と言えるように、仲直りするきっかけになるように。

俺は朝比奈の書いたトレーニング方法の紙をぎゅっと握りしめて、再び河川敷に向かって走り出した―…。




真っ暗闇に映る影


太陽が沈みきってもなお、河川敷ではサッカーボールの蹴る音が鳴り響いていた―…。



(真一!こんな遅くまで何やってたの!ってどうしたの、その傷!)
(ごめんごめん。全然大丈夫だから。俺やることあるから飯後にするわ)

――――…

(真一!部屋で何やってるの!ドンドンうるさい!)
(筋トレーッ!)
(部屋でやるもんじゃありませんッ!)


to be continued...

お母さん(笑)
どんな感じかな、最後はちょっとオマケ(^O^)

ではでは、仲直りに向けて頑張ります!!

2013.7.20

[bkm]

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