遠くなってゆく足音 (73/109)
私は立ち上がって、地面に落ちている彼のボールを拾い上げた。
ぽつ、ぽつ、と雫がそのボールにこぼれ落ちる。
「…半田、くん…っ…」
「風丸風丸って…そんなに風丸が好きなのかよ!だったらなんで俺の練習になんかに付き合うんだよ…!……っ…そんなの…俺が…っ…」
私は、何も言えなかった。怖くて、震えることしか出来なかった。
眉を寄せて、目を光らせて、でも、寂しそうな表情をする半田くんを見て。
どうして、そんなに怒るの…?
どうして、怒っているのに泣きそうな、寂しそうな表情をするの…?
分からない。私には分からないよ。
どうして、瞳を震わせて、拳を震わせて、歯を食いしばるの…?
どうして、半田くんはそんな言葉を言うの…?
私が好きなのは、半田くん、なのに…。
やっと気付いたのに。やっと、近付けたのに。
ただ、力になりたかっただけなのに…。
また、遠くなった。彼から、遠ざかっていった。
悔しいよ。悲しいよ。辛いよ。
会いたい、会いたいよ…。
半田くんは怒鳴り散らした後、勢いよく河川敷を去っていった。この、ボールも残して。
このボールには、"はんだ"という文字と幾つもの傷や砂が刻み込まれている。
そのたった3文字でさえ、傷で薄く消えかけている。それは、今まで頑張って来ていた証拠。
私は無意識に彼を傷付けた。頑張って来ていた彼を。
それを察した私は無性に虚しさが募って、どうしようもなく涙が溢れた。
どんなに彼を想ってもこの声は届かない。聞こえていた足音ももう消えかける。
追いかけることも出来ない。その彼の背中を。
私は弱虫で、ただただ泣くことしか出来なかった…。
「ごめん…ねっ…ごめん…ね…」
その声ですら、響かない。
誰にも届かないその声は、無情にも夕暮れ空へと吸い込まれていった―…。
遠くなってゆく足音
どんなに泣き叫んでも、どんなに彼を呼んでも、
彼はもう、戻ってくることはなかった―…。
to be continued...
久々ですのでせめて2話…。
対の話です!!こういう切なめの話は私好きです、
頑張って更新します、はい。←
この話の最も主の場面の1つ…楽しかったです!
2013.6.4
(
back)