小さな夢の膨らみ (57/109)

【半田視点】


「風丸…大丈夫かな…」

「あぁ…なんか凄い追い詰められてる感じしたからな…」


俺達は新しく用意された部室で着替えながらそんな会話をしていた。

風丸がキャラバンを降りるなんて考えてもなかったし、今でも驚いているくらいだ。


きっと朝比奈が風丸を元気付けでくれているんだろうな、と察した時だった。



「そう言えば…タオルとかドリンク…朝比奈が持ってなかったか?」

「あー…そうだね。どうしようか…」


確か朝比奈がタオルやドリンクを片付けるために持っていた気がする。
風丸と話しているなら遅くなってしまうわけだし、それで朝比奈の帰りが遅くなってしまうのは良くないと思った。



「じゃあ俺貰ってくるよ。みんなで片付けようぜ」

「そうだね!じゃあ宜しく、半田」

「了解」


パッと学ランだけ手にし羽織ながら部室を出て先ほどの道を引き返した。


これほど運の悪さを呪ったことがあるだろうか。まさに知らぬが仏である。



「…っ……!」


見てしまったんだ。運悪く。

朝比奈が風丸に抱きついているところを。


見ていられなくなって俺は瞬時に唾を返した。一瞬このまま引き返してしまおうか迷った。

でもやっぱり気になる訳で。ちらりと振り返って2人を見てみた。


見えるのは風丸の顔と朝比奈の背中だけ。

でも風丸はなんだか表情が大分明るくなっていた気がした。きっとこれも朝比奈の力なんだろうと思う。

そんな光景を見た俺は、その場に入っていく勇気など持ち合わせていないわけで。結局何もしないままゆっくりと部室に向かって歩き出した。




「あれ、早いね。…さすがだよ、半田。手ぶらで帰ってくるなんてさ」

「あは…あははは…」


抱きついていたなんて言えやしない。

あの雰囲気に入っていけないくらいの臆病者だなんて言えやしない。


何も言えずただ苦笑を浮かべながらそう反応しておいた。

どうせ笑えてないだなんて知ってる。泣きそうなくらい涙溜まってるって知ってる。


そんな顔を見られたくないがために目指すは自分の鞄が置いてある場所。

壁と向き合っていた方がまだマシな気がした。

俺は自分の鞄のそばに行くと、乾いた笑い声を浮かべながら1つ深いため息をついた。



「まぁさ、ちょっと待っておこうか。きっとすぐ話も終わるでしょ」

「そーですね。ちょっと待機してましょうか」


また、その言葉で泣きそうになってしまったのは秘密。さすがマックスだなぁって感じた瞬間だった。

たったあれだけの動作で俺の異変に気がついて、気を遣ってそう言ってくれたんだろう。


何だか急にいろんな感情が募ってきて、抑えるべく俺は鞄に付いているストラップをぎゅっと握った。



「そう言えばさ、半田ってそんなストラップ持ってたっけ?」

「へっ?!」

「入院前はなかった気がするんだけど…」

「た、ただ何となく付けただけだよ!さ、寂しかったっていうか…」


「へぇ…半田にしては可愛い奴だなって思ってさ」

「うっ…!」


また涙目になった。今度はちょっと違う意味で。
本当に俺ってメンタル弱いなぁなんて自分を恨んだ。

でも、思わず顔が綻んだ。何となくぽっと頬に熱が帯びる。



「ふーん。そういうことか。まっ、そうだろうと思ったよ」

「へへ…。いい、だろ…」

もはや隠すなんてすることは諦め、ついにデレに入ってしまった、なんて俺も随分変わったもんだ。


「うん、ニヤけてるよ、半田。気持ち悪い」

「なっ!んなさらりと!」


何だかなぁと口を尖らせたが、先ほどの暗かった気持ちは少しずつ晴れていく。

なんやかんやでマックスにはいろいろと助けて貰ってるよな、なんて思った。


まだまだ自信なんて持てるわけはないけど、こんな形でもいいからずっとマックスには応援していてもらいたいと思う。

我が儘だなんて知ってるけど、見方がいてくれるのといてくれてないのとでは気の持ちようが大分違うから。


少しずつでもいいから、朝比奈と距離縮めていきたい。

そう思いながら俺はぎゅっとそのストラップを握った―…。




小さな夢の膨らみ


そんな思いを、後々自分から壊していくなんて。

まだ俺は知らない―…。


to be continued...

なかなか上手く纏められなかったなぁと後悔中…。
最近のはちょっと1話分が長い気がします(^O^)
ちょっとは読み応えがあ((

風丸くんバンバン出ますからね!!
ウキウキしてます(笑)

2012.10.17

[bkm]

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