俺の帰る場所 (56/109)

【風丸視点】


駅を降りてまず目に飛び込んだのは河川敷。そこから数々の思い出が蘇ってきた。


染岡がキャラバンを降りた時もここだったか。

懐かしい中、ここで練習していったか。

確かランニング中、朝比奈とも会ったな。


そんなことを思いながら俺はそのグラウンドを見つめていた。


でもきっと、今の俺にはグラウンドに立つ資格などないだろう。


諦めたんだ。エイリア学園と戦うことを。

あの時のヒロトの目つきは忘れない。ずっとずっと俺の中に刻み込まれている。

怖くて動けなかった。怯んで円堂を助けに行けなかった。

全て弱い自分が招いたこと。


見ているだけ辛くなった俺はゆっくり唾を返すと雷門中に向かって歩き出した。



でも雷門中に帰って、その光景を見た俺は思わず足を止めてしまった。


「こっち!パス!」

「行かせませんよ!」


キラキラ輝いていた。

練習しているアイツらの姿は、妙にキラキラと輝いていた。


前会った時は動けなかったアイツら。でも今はこうやって復帰して、サッカーをやっている。

笑顔で、楽しそうにサッカーをやっている。


時間が来て、練習は終わった。俺は俯き、自分の弱さを改めて感じた。


なんで自分はこんなところに立っているんだろう。

俺の帰るところなんてもう、どこにもなかったのかもしれない。


立つ場所が違う。フィールドに立っていいのはどこだって、サッカーと向き合っている奴だけ。
楽しんでいる奴だけ。

俺なんかが立てるはずはない。雷門中のフィールドにだって。


踏み出すのが怖かった。
もう一度あのフィールドに足を踏み入れるのが怖くて出来なかった。

拒まれるんじゃないかって。そう一瞬脳裏をよぎった。



「…っ…風丸くん…!」


するとその時、俺の存在に朝比奈が気付いた。

一歩を踏み出すのを躊躇いながらも、きゅっと口を結んだ後、俺はゆっくり歩き出した。


本当にいいのだろうか、そんな事が頭を駆け巡りながらも踏み出す一歩一歩。

次第に見えてくる朝比奈の不安そうな顔。その顔が一瞬チラつくと俺は見ていられず俯いた。



「ごめ…ん…。俺…」


「ううん…今は何も言わなくて大丈夫。話は…ちゃんと聞くから…無理はしないで…」

「…っ…ごめん…」


今は謝ることしか出来なかった。何に対してかも分からない。でも今はその言葉しか出てこない。

そんな俺に気遣ってくれたのか、朝比奈は優しく俺の肩に手を乗せると後ろで止まっていたみんなに先に着替えているよう促した。


どんな言葉を言えばいいのかも分からず目を合わせることも出来ない。ただ、オレンジの地面を見つめることしか出来なかった。


でも



「お疲れ様…風丸くん…」


「っ…朝比奈…」



その台詞で、ドクンと大きく胸が波打った。

パッと顔を上げればぶつかる視線。その優しい朝比奈の瞳をやっと見た俺は小さく肩を震えさせた。



気付かなかった。


なんで、なんでこんなに綺麗なのに、俺は気付けなかったんだろう。

どうしてこんなにも街は紅く染まって、こんなにも綺麗な色を映しているのに、何も感じなかったのだろう。




「…っぐ…朝比奈……」



"お疲れ様"


その言葉で、どんな形であったとしてもずっとサッカーと向き合って来てたんだって気付いた。

目を逸らしたくなったときだって幾度となくあったけれど。

その言葉で、どんな形であれど俺を縛り付ける何かが切れたんだ。


その言葉で、やっと俺の心は色を取り戻していったんだ…。



「よく…頑張ったね…」


「…っ…」


"頑張った"

いいのだろうか、こんな俺を認めてしまって。

諦めた俺を、1人のサッカー選手として戦ってきたことを、認めてしまって。

その言葉はこんな俺が言ってもらえる言葉なのか。

分からない。でも1人じゃきっと答えは出なかったんだと思う。


泣きそうになってしまったんだ。

揺れる瞳からは涙が自然と溜まってくる。それでも零さないよう必死に唇を噛み締めた。


でも、やっぱり耐えられなかったんだ。


朝比奈は優しい瞳を見せて、気付いた時にはすぐ側に朝比奈の温もりがあって、俺の涙は自然と頬を伝っていた。



「おかえりなさい…風丸くん…」


感じる朝比奈の温もり。優しくって温かい。


「…っ…いい、のか…?こんな、俺が…ここに、帰ってきても…」


「何言ってるの…。風丸くんは大切な…仲間でしょ…」


「っ…うぅ……朝比奈…」


抱きしめる腕が強くなる。

俺はそんな温もりをもっと感じたくなって、朝比奈の背中に手を回したんだ…。



「あり、がとう…」


ありがとう。こんな弱い俺を受け入れてくれて。

ありがとう。




俺の帰る場所


やっと後悔したんだ。

もっと頑張れたんじゃないかって…。

でも、もう俺のその願いは叶わない。


だけど、俺はこのフィールドでもう一度コイツらと戦いたい。

そう、心から感じたんだ―…。


to be continued...

2つ前の話の風丸くん視点バージョンですっ!!

彼が降りてくる時には絶対甘くしてやろうと思ってたんで…満足です\(^o^)/
甘いかは分かりませんが。

ふふふ、ようやく風丸くんにもフラグ立てられました!!
彼は最初からフラグ立てる予定だったんで……。

佐久間は唐突に立ちましたが。

2012.10.7

[bkm]

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