不幸の連鎖 (53/109)



「ちょっと休憩ー!」


「ふぅ…。やっぱり久しぶりだから体力落ちてるなぁ…」

「僕も…すぐ息切れしちゃう…」



久しぶりにサッカーをやっている彼らに私の頬は自然と緩まっていた。

どんなに体力が落ちていようとも、どんなに息切れしようとも。やっぱり彼らがサッカーをやっている時の表情はキラキラと輝いていた。


私はそんな彼らにハイ、とタオルを渡す。これまた久々のマネージャーらしい仕事にやりがいを感じていた。



退院して、またサッカーが出来るようになって、私たちがこうやって幸せな時間を過ごす中。
まさかもう一つの彼らの方で不幸が連鎖していたなんて、知りもしなかったんだ…。



水分補給を度々加えながらもみんなでワイワイと話していた時。

ベンチに置いてあった私の携帯はバイブと共に揺れた。着信の知らせだった。


その背面画面には"風丸一郎太"の5文字。


久しぶりに目にするその5文字を見て、何だろうと半ばワクワクしながら私は口元に弧を描くと携帯を手に取った。



「もしもし風丸くん?どうした…っ…」


でも、返って来た言葉は私の予想を遥かに超えるモノだった…。




『ごめん…。俺、キャラバン降りたんだ…』



「え…?」


直ぐに理解することは出来なかった。彼は何を言っているんだろうと何度も耳を疑った。


風丸くんが…キャラバンを降りた…?


きっとここにいる誰もがこの話を聞けば驚くだろう。

だって彼は前回会った時は元気だった。ちゃんと相手と向き合っていた。

なのに、なのに、その彼自らの声でそう告げた。



『今、稲妻町に向かってるんだ…』


そんな震えた彼の声は静かに騒音に呑み込まれていった。

ガタンガタンと時折聞こえる電車の音が本当に帰って来ているんだって余計実感させる。


私の顔から笑顔が消えたことに不審を感じたのだろう。「どうした?」という声がもう片方の耳から入ってくる。

でも私はまだ答えることが出来なかった。まだ信じられなかった。


淀んだ空気。風丸くんのいる向こうにまで伝わってしまいそうだった。



『今日の、夕方くらいにはきっと着くと思う』


「風、丸くん…っ…」


何も言えなかった。何も言うことが出来ぬまま、彼は最後に『本当に、ごめん』とだけ言うと一方的に電話を切ってしまった。

私の耳に残ったのはツーツーという虚しい音。静かに携帯を耳から離すとパチンと閉じた。


本当は「お疲れ様」と言ってあげるべきだったのかもしれない。でも私は驚きのあまりそんな言葉が浮かんでくることはなかった。

まだ耳に残る、現実と実感させるその虚しい音に私は小さく唇を噛み締めた。



「どうした?朝比奈…」


「うん…。あのね…」


風丸くんがキャラバンを降りたのは紛れもなく真実なんだ。

チクチクと痛む胸を抑えながらも私はゆっくり、先ほど伝えられた事実をみんなに話していった。


みんなも反応はほとんど同じだった。半ば信じ切れていない様子で目を見開けていた。



「そっか…風丸がそう言ったんだな…」

「うん…」


「じゃあ…温かく迎えるしか、ないな…」


半田くんは優しそうな、ちょっぴり寂しそうな笑みを浮かべるとそう小さく言葉を紡いだ。

その言葉にみんなは黙って頷くだけ。私も、うんと小さく頷いた。




不幸の連鎖


ただ、私たちには帰る場所を作ってあげることしか出来なかったんだ―…。


to be continued...

ついに来ました風丸ゥゥ←

彼も落ちるところまで来てしまいましたね…。
これからが楽しみです

長い間更新出来てなかったということでもう1話どうぞ(^O^)←

2012.9.27

[bkm]

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