ただ君のそばで (51/109)



それからあっという間に非日常は終わりを告げた。

さすがに足を汚した宍戸くんや影野くんは歩いては帰れそうにない。そのため2人は車で帰っていくことになった。


残った私と半田くんとマックスと少林寺くんは他愛もない会話を交わしながらオレンジに染まるアスファルトを歩いていった。



「あのさ、ちょっと久しぶりに鉄塔広場行きたいんだけど…」


「鉄塔広場?私も行きたいな!」


「賛成賛成ー!行こ」


ただ真っ直ぐ伸びるだけの変わらない道を歩いていた時、半田くんは鉄塔広場に行きたいと提案した。

もちろん私達も賛成し、足は自然と鉄塔広場へと向かっていた。

鉄塔広場から見える景色は最高だし、今日は夕日も出ている。

だからきっと今日もキレイなんだろうな、とそこから見える景色を想像して私は1人ふふっと笑った。



幾つかの道を超え、少しばかり鉄塔広場にある木々が見えてきた時。

いきなりマックスは何か思い出したように声を上げた。



「あー、ちょっと先行ってて。トイレ行きたくなってきた」


「あ、俺も行きたいです!2人は先行ってて下さい!」


マックスに続き、少林寺くんも慌ててそう言葉を紡ぐ。

いきなりどうしたんだろうと思わず私は首を傾げてしまった。



「え、ちょっと…っ!マックス、少林ー!」


半田くんのその台詞も虚しく、いきなりそう言い捨てると2人は慌ててトイレへと向かっていった。

取り残された私たちはお互い目をパチパチさせて疑問符を浮かべるばかり。



「行っちゃった…ね…」

「あ、あぁ…」


「先、行っておこうか…」

「…っ……うん」


何となく重い空気が流れながらも階段を登りてっぺんに着くと、その風景を見て私は目をキラキラと輝かせた。



「わぁ!キレイ…!」


予想以上のキレイさに思わず目を奪われる。


久しぶりに見た稲妻町。

長い間みんなのお見舞いに行っていたため、この鉄塔広場とは随時ご無沙汰していた。

相変わらずキレイだなぁと感慨深くなりながらしばらく眺めていると、ゆっくりと隣に半田くんが来た。



「キレイだな…」

「うん…!」


ここに来ると心が落ち着く。

嫌だったことも、辛かったことも、何もかもちっぽけなように感じる。

円堂くんがここを好む理由が凄く分かる。


早くマックス達も来ないかなぁなんて頬を緩めていると、半田くんは改まったように声を出した。



「あっ…あのさ…!」


「ん?」


横目で半田くんを見るが視線は交わらない。

夕日に当たる半田くんに思わずドキンと胸が高鳴って、私は真っ直ぐ前を向き直す。


その真剣な表情に、私は息を詰まらせた。



「あ…ありがとう、な…。ずっとずっと…見舞い来てくれて…」


その台詞で私は再び半田くんを見た。

半田くんの瞳は真っ直ぐ前を見つめていて、真剣に言ってくれているんだと自然と嬉しさがこみ上がる。


"ありがとう"その言葉にムズがゆさを感じたが私はへへっと微笑んだ。




「おま…お前がいたから…その…っ…」


「…?」



「…っ…。あーもう!」


何か続きを言おうとしていたのか、半田くんはそう眉を寄せ言葉を紡ぐと髪をくしゃっと掻いてベンチに座った。



「半田、くん…?」


「嬉しかった…っていうか…」


「え?」



"嬉しかった"


思いも寄らぬ台詞が飛び出してきて、思わず私はそんな声を漏らしてしまった。


"嬉しかった"

それは寧ろ私の方だった。彼らが無事に退院してくれて。

確かに退院出来たことは彼らにとったら大きな喜びであることは知っているけれど、いまいちピンとこない。


交わらない視線のまま、首を傾げて半田くんを見つめていた。




「半田ァー!朝比奈ー!……ってやっぱりお取り込み中だった?」


「「…っ!」」



異様な雰囲気が流れていたその時。

トイレから帰って来たのであろうマックスと少林寺くんが戻ってきた。


マックス達は駆け寄ってくると一時停止したようにピタリと動きを止めて、そして再び体を返すと先ほど来た道を帰っていった。



「ごめんごめん続けて」


「っ…!つ、続けられるか!」


半田くんがそう反発するとやっと現状を理解して。理解した私は一気に赤面することになる。


しばらくぼーっと前を見つめる事しかできなかったけど、またワイワイと騒ぎ出す彼らを見てやっぱりいつまでも変わらないんだと口に手を宛てて笑った。


それが、何よりの幸せだった。

無邪気な彼らの笑顔。それが私の一番の薬。


ドキドキする胸。きっと夕日で顔が赤いのはバレないんだろう。


それは彼も一緒だったなんて、まだ私には分からない。


でも、それに気付いた時、きっと世界は変わって見える。


そしてそれと同時に、いつもの関係は崩れてしまうのかもしれない…。

そう心の隅で思った。



変わってしまった時、きっともう元には戻らない。


だから、だから、

変わらずいられる今だけは、



ただ君のそばで


笑わせてほしい―…。


それは、小さいながらも、私にとっては大きな願いだった…。


end. 第二章
next. 第三章

ちょっぴり甘多めのつもりでしたが…。思ったよりもできたてのカップル並みにどぎまぎしてる感じになっちゃった気がします(^^;;

もどかしい超えてイライラになってなければいいんですが…(><)

短編並みに量が多くなりましたが、第ニ章はこれにて終了です!!
第三章も宜しくお願いします!!

2012.9.14

[bkm]

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