ホスピタリティ (45/109)
「………ありがとう」
佐久間くんがそう言ってくれた。もう一度、サッカーをしたいと言ってくれた。それが凄く嬉しくて、私は自然と頬が緩む。
少しは彼の力になれたのかもしれない、そう思うとやっぱり嬉しさが募る。
しかし、また、それと同時にあの頭痛がした。一瞬だけど、頭に刺激が走る。前よりも、何となく強めな気がした。
「どうした、大丈夫か…?」
「えっ…あ、うん大丈夫!ちょっと頭痛がしただけだよ」
「そうか…」
そう、ちょっとだから大丈夫。そう思って私はそれ以上何も考えないことにした…。
それからというもの私はしばらく滞在させてもらい、2人と話をしながら楽しい一時を過ごしていた。
相変わらず佐久間くんはベッドに横たわったままだったが、その表情はどこか温かくて。
話していた私も自然と頬が緩む。
20分程話していた時の事だった。
何となく長い間話していたんじゃないかなと思い、ふと時計を見た。
するとそれと同時に源田くんが小さな声を漏らした。
「今…誰か見てなかったか…?」
その声が静かに消えていくと私はドアの方に目を向けた。
そのドアは本当に少しだが開いていて、私が入って来た時にきちんと閉めなかったのかもしれないと眉を割った。
別に聞いてほしくない話ではなかったし、私自身もあまり気にしないので平気だった。
だけど2人は嫌だったかもしれないと、私はドアを閉めに行こうと立ち上がった。
「すまないな…朝比奈…」
「気にしないでっ。私がきちんと閉めてなかったんだろうし…」
そう気にしないでと言うとドアの方まで駆け寄った。
でもやっぱり何となくここまで来たなら気になってしまう訳で。
私はドアに歩み寄ると、今よりも少し開け廊下を覗き込むように顔を出した。
「……あっ…!」
偶然か、それとも必然なのかは分からない。
でも、顔を出した私の目線の先には茶髪の双葉が特徴である、彼の後ろ姿があった。
間違いない、半田くんだ。
「ごめんなさい…佐久間くん、源田くん。私…そろそろ彼らの所に行かなきゃ…」
「そ、そうか…」
突然のことだったので驚いたのだろう。源田くんは慌ただしく取り繕うとそう言葉を紡いだ。
暫し本当の目的を忘れかけていた私は、彼の背中を見つけるとふと思い出した。
毎日といってもいいほど、病院に行ける日はほとんど顔を出していた。
いつもの時間はもうすでに過ぎている。
心配してくれていたらな、なんて都合のいいことを考えたがすぐにかき消すと後ろを振り返り2人にそう言った。
そして帰る支度をするため、置いていた鞄取りにもう一度奥へと進むと、まだ完全に理解していないんだろう佐久間くんと目が合った。
パチパチと瞬きをさせるその目に少し惜しさを感じながらも、横目で手を振ると再びドアまで駆け寄った。
そして、半田くんに置いていかれないよう急ごうとドアに手を掛けた私だったが、あることを思い出し「あ…。」と声を漏らした。
そして顔だけ回転させると2人に向かってこう口を開けた。
「また…来てもいいかな…」
そう目を細めて言うと、気のせいかほんのり頬を染めた佐久間くんはようやく笑って答えてくれた。
「あぁ…。また…来てくれ…」
ホスピタリティ
"ありがとう"
そう笑顔を向けると私は彼の背中を目指して走っていった―…。
to be continued...
これで帝国のお話は一旦終了です!!
決して半田くんはストーカーみたいに覗いていたわけではない!!
わかってください!!←
またどこかで出せたらなぁと思います(^O^)
2012.8.20
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