握られなかった右手 (43/109)
「頑張ったね…。よく、頑張った…ね…」
そう私が言うと佐久間くんは左目を大きく見開けた。そして、やっと佐久間くんと目が合った。
私のその言葉に驚きを隠せないようで、私の目を捕らえたまま動かない。
佐久間くんは私に自分の想いを打ち明けてくれた。
名前も知らなかった私を、雷門中という彼らの敵だった私を、信じて。
佐久間くんは話していけば話していくほど、表情は苦くなるばかり。
蘇っていくのだろう。辛い過去が。苦しい想いが。
それでも留めることなく、佐久間くんは話してくれた。
話し終えたと感じると知らず知らずのうちに私はそう呟いていた。
動かせないであろう佐久間くんの右手に自分の右手を重ねていた。
すると溜まっていた想いが溢れ出したのか、凍りついていた心が溶けていくかのように左目から頬を伝って雫が流れていった。
「焦らなくても…いいの。例え間違った道を進んで遠回りになったとしても、それだって大切な経験」
間違った道を一度知ってるだもん、次は間違えないでしょ。
そう佐久間くんに笑いかけると佐久間くんは再び私を見つめる。
その目には、確かに光が宿っていた。朝来たときにはなかった、温かな光が。
「もし間違った道に進もうとするなら私が止める。もしまた2人が間違った道を進もうとするなら、今度は全力で私が止める」
敵味方なんて関係ないの。
円堂くんはよく言う。試合が終わればみんな仲間なんだって。
「例え、帝国の選手だとしても、全く関わりない雷門のマネージャーだとしても、ね」
全力で、私は助けたい。
全力で、向き合いたい。
雷門のマネージャーとして、1人の人間として、彼らを。
私の想いが届いたのか、佐久間くんはぎゅっと唇を噛み締める。
そして震える唇を無理やりこじ開けた。
「強く、なりたい…。もっともっと…身体も…精神も…」
佐久間くんは溢れる涙を拭うことも出来ない。
でも…
「サッカー…したい…。もう一度…鬼道と…みんなと…」
その瞬間、確かに重なる右手に圧力を感じたの。
私は目を見開け腕を辿って右手に視線を移した。
そこを見てみれば、確かに佐久間くんは私の手を握っていた。
小さいながらも確実に、力を込めていたんだ―…。
握られなかった右手
それは、
前に進むための確かな光を示していたんだ―…。
to be continued...
まだ動かなかったんかい!!って突っ込みはナシの方向で(笑)
私はどうやら怪我してるキャラとかを動かすのが好きらしい。鬼畜だなんて思わないで!!←
2012.8.13
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