何も感じない右手から (42/109)
【佐久間視線】
突然俺たちの前に現れた雷門中サッカー部のマネージャーという女。
その女はひどく真っ直ぐな瞳をしていた。
その女と視線が合えば俺は何も言えなくなる。ただでさえ動かない身体が脳まで上手く動かなくなる。
そんな状態で女は自分の経験を話していった。
それははっきり言ってしまえば目を逸らしたくなってしまうほど、自分と重なる話だった。
くすぶられる俺の心情に気付いたのか、女はニコッと笑うとイスから立ち上がった。
そして
「また、来てもいいかな…?良かったらそれまでに考えておいてくれるかな…。でもこれだけは覚えててほしい」
そう言葉を発すると優しい笑みを浮かべてこう俺らに言った。
「どんなに敵だった相手でも…私は、支えたいの。敵も見方も関係なしに、1人の人間として、ね…」
そのセリフで、俺を縛り付けていた鎖が1つ、切れた気がしたんだ―…。
「羨ましかったんだ…」
気付けば俺の口はそう動いていた。
全く知らなかった女に、簡単に感情を見せなかった俺が、無意識にそんなことを口走っていた。
俺の口は留まることを知らない。溢れかけた想いが留まることはなかった…。
「ただ、羨ましかったんだ。鬼道が」
俺がそう言葉を紡ぐと女はもう一度、イスに座り直した。
それを横目で確認だけすると俺は続けた。
ずっと、ずっと溜めていた想い―…。
俺はずっと鬼道を目標としてきた。
影山からも優遇され、俺らよりも一歩先に行く鬼道を。
帝国を抜け、雷門に行った鬼道を見て、決勝戦を見て、俺は自分の居場所ってのをよく考えるようになった。
自分は何をしたいのか、どこにいたいのか、を…。
鬼道は見つけたんだ、自分の居場所を。
でも俺は答えを見つけられなかった。
見つからなくて、焦ってた。
そしたら、鬼道みたいに強くなれば答えは見つかると思ったんだ。
強くさえなれば俺にだって鬼道の見ている世界が見れるって。
そんな俺は、強さだけを求め、あっという間にエイリア石に取り込まれた。
これさえあれば自分の居場所が見つかる。
これさえあれば目標としていた鬼道でさえ追い抜かせるんだって。
でも、そんなのは違った。
結局追い抜かせるどころかまた俺は居場所を失った。
結局俺は弱いままだったんだ。
前となにも変わらない、弱いままの自分でしかなかった…。
溢れる想いばかりを口にするが、この女は「うん、うん…」とだけ言って真剣に俺の想いを受け止めてくれていた。
共感してくれるわけでも、反論するわけでもない。でも、なぜか妙に心地良くて。時折映るこの女の瞳は真剣で。真っ正面からぶつかってくれているんだと思うと自然と言葉だけが口から出ていた。
「怖いんだ…もう…。失うのが…」
いつからだったんだろう。
俺の左目からは雫が頬を伝って枕に落ちていた…。
「頑張ったね…。よく、頑張った…ね…」
何も感じない右手から
確かに、温かな懐かしい人の体温を感じたんだ―…。
to be continued...
途中から想いなのか話してるのか分からなくなりましたが…(苦笑)
佐久間の想い、こんなんじゃないかなぁって思いながら執筆してました!!
楽しかったです…!!
2012.8.13
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