実行するだけ困難で (108/109)



結局私は円堂くんに送られた後も家に帰らずにいた。

何となく気持ちが落ち着かない。外の風に吹かれていよう、と私はこうして1人ぶらつく。

エイリア学園に遭遇するかもしれない。そんな危険性も十分あった。

だが、それ以上に私の中の何かが蠢く。スッキリしなくてモヤモヤしていた。

会って本当のことを問うことが出来るならば、それ以上簡単なことはない。だけど、その分精神的に来ることくらいも重々承知していた。
あとは私次第だろう。もっと私自身も強くならなければ…。


私は鉄塔広場で稲妻町を眺める。もう外は真っ暗で、町は人口の光で溢れている。

私もそれくらいキラキラ輝けるなら…。ここに来てから何度思っただろうか。


ふぅと1つため息を吐きもう一度町を見た。そんな時だった。



「あれ、先着か?」

「…っ…?」


私はぱっと振り返った。そこにはピンク色の髪をした人と茶色の髪をした人がいた。

確か名前は…綱海くんと立向居くん。

見覚えがないわけではない。だけどこうしてきちんと会うのも初めてだろう。


「お前はあの時の…」

「うん…。顔、覚えてくれてたんだ…」

「えっと…あの…大丈夫、ですか…?」

「…っ…。ありがとう…。でも気にしてないから大丈夫だよ」


恐らく立向居くんが言いたいのはダイヤモンドダスト戦の時のことだろう。確かにあの時初めて顔を見たにしろ、あんなにも冷たく突き放されたら心配してくれる人はいると思う。

だけど、さっきも言ったように瞳子監督を恨むようなことはない。

瞳子監督が意味もなく私を冷たく突き放したように見えるかもしれないけど、私はちゃんと知っているから。

瞳子監督が私を想って冷たく突き放したってことを。


私は眉尻を下げ、静かに微笑む。



「そういえばよ、ずっと気になってたんだけど…。円堂たちとも知り合いっぽかったし…お前って雷門中のマネージャー…だよな?」

「うん…。そうだよ」

「だったらよ…どうしてキャラバンに参加してねぇんだ?」

「他のマネージャーさんたちも参加してますし…俺も気になってました」


私はまた静かに微笑む。そしてベンチに座ると天を仰いでゆっくり話した。


「聞いたことないかな…?初めに宇宙人が来た時のこと…。その時ね、怪我人が出たの。そう、今日のアフロディくんみたいに、それが何人も。入院して、動けなかった。キャラバンに参加することが出来なくなったの」


「円堂さんから何となく…聞いたことあります」

「それでね、私はみんなを置いていけなかった。入院した人たちを支えなきゃってとっさに思って…。だから私はキャラバンを降りた。一番、最初に…ね…」


あの人にも言われた。

一番最初に宇宙人から逃げたのは私だって。

強ち間違ってない気がした。だけど悔しくて最初は認められなかった。でも最近はよく思う。私は宇宙人から、エイリア学園から逃げてるんだって。



「だから瞳子監督はあの時…!?」

「ううん、違うよ。瞳子監督は私を助けてくれたの。でも私は…それに答えられなかったのかもしれない…」

「答えられなかった…?」


『待っているよ…朝比奈楓香…』

『お前…どっかで会ったことねぇか…?』

『やぁ、久しぶりだね…楓香…』



「うん…。瞳子監督は私がエイリア学園と接触するのを避けてくれてたの。だけど会っちゃったんだ…みんなに」

「会っちゃった…ってことはやっぱりあの時2人が言ってたのは…」

「…?」

「あ、そうそうそれ!スッゲー気がかりだったんだよ!試合終了間際にグランが来てよ…なんか訳分からないことばっか言ってて…」


「あの…!その時のこと…詳しく教えてくれませんか…?」

「?」


その後は私は2人から今日の試合について話を聞いた。

明日、最終決戦があるということ。瞳子監督が怪しいということ。そして、みんなが行くかどうかに悩んでいるということも。



「お気に入りとか何とか…。お前、エイリア学園と何か関係…あるのか?」

「よく…分からないの…。だけどきっと…関係あると…思う…」

「っ…!」

「昔会ったことがあるみたい。だけど…なぜか全然思い出せないの…」


私がどんな表情をしたのか分からないが2人は黙り込む。そしてしばらくしてから綱海くんが口を開く。


「なんかごめんな…。何も分かんなかったから知りたかったっていうか…」

「ううん、大丈夫だよ。私こそごめんなさい…。関係あるって言ったのに何も分からなくて」

「あ、謝らないでください…!悪いのは俺たちなんですから…!」

「……イナズマキャラバンのみんなって…やっぱり優しいね」


やっぱり、なぜか円堂くんに集まる人たちはみんな優しい。雷門イレブンもみんな優しかった。


「だからってわけじゃないけど、私は瞳子監督のこと…信じてあげてほしい」

「監督を…?」


そんな優しい人たちだから、きっと監督だって信じられると思う。


「うん…。私が言える立場じゃないけど、諦めないでほしい…。みんなには、みんなには…戦えなかった人たちの分まで戦ってほしい。それが私の、私たちの望みだから」


私たちはエイリア学園と戦えない。

だから、それが最後の望みなの。

イナズマキャラバンのみんながフィールドに立って戦うことが。



「俺…戦います」

「立向居くん…」

「監督のこと…信じてみたいんです」

「立向居!抜け駆けはズリーぞ!んー…まぁ俺も最初から戦うつもりでいたけどよ…」

「綱海くんも…。ありがとう、2人とも…」


それでこそ、イナズマイレブン、だよね…。



「あ、そう言えば2人はどうしてここに?」

「特訓だぜ!コイツのムゲン・ザ・ハンドのな!」

「綱海さん…っ!痛いです!」

「そっか…そっかぁ…!私も見ていっていいかなッ?」

「おうよ!」

「な…なんか恥ずかしいです…!」



私もいずれ戦う時が来る。エイリア学園と、自分自身と…。


確かに私は弱虫だし泣き虫。変えなければ、強くならなければ。

これは誰にも頼れない、私だけの問題だから。

そんな頼れない状況の中で、私は1人強くなってエイリア学園と戦わなくちゃいけない。


だから、もう少し、答えを待ってて…。




実行するだけ困難で


だけど、どんなに強く決意しても、実行するのは果てしなく厳しい道だった―…。


to be continued...
(2017.11.15)

[bkm]

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