蘇った記憶と嘗ての友 (107/109)
【ウルビダ視点】
「なんのマネだ、ウルビダ」
私は薄暗い中、ムカつくアイツにボールを1つ蹴り込む。この赤の影はそのボールを宙で足に挟み軽く地面に降りる。
「なぜカオスのゲームを中断した」
「バーンとガゼルに引き際を教えてあげただけだ」
そう、この赤、グランこと基山ヒロトは意味ありげに含み笑いを浮かべる。
コイツの行動はいつも勝手だ。知らないうちにどこかへ出かけてしまっている。
それもムカつく1つだ。
「ジェネシスのキャプテンならば目立った行動は控えるべきではないのか」
「逆だね。ジェネシスのキャプテンだからこそ秩序を守ったんだ。エイリア学園の存在する意味はすべてジェネシスにあるということを」
コイツは、キャプテンとしての自覚はあるのか。ようやくジェネシスの座を勝ち取ったというのに。
「秩序とはな…」
お前にとって、秩序とはなんだ。
いつも私とお前はサッカー以外のことでは噛み合わない。
昔はこんなんだっただろうか。
コイツはそれだけ言い捨てると私に背を向け去ろうとした。だが、いきなり止まると口角を上げたままこちらを振り返る。
「そうそう…ウルビダ」
「なんだ」
勿体ぶるように少し間を挟んだ後、コイツは懐かしい単語を口にした。
「今日…楓香に会ったんだ」
「楓香…?もしかして楓香って…」
「そう、朝比奈楓香。俺たちの大切な仲間さ」
朝比奈楓香。私たちの仲間。いや、かつての友だ。且つしてコイツが最も愛した女でもあるだろう。
だが、なぜコイツは表面上だけで笑う。
なぜ、笑っていても、目だけは笑っていないんだ。
その瞳に私は何か狂気じみたモノを感じた。
「だけど残念だったよ。どうやら俺たちのこと、覚えてないらしいんだ」
「楓香が…か?」
グランの話によると楓香は何も覚えていない様子だったらしい。
だが、それはおかしい。
確かにあの頃は幼かった。だけど記憶に残らないほどあの思い出は小さいモノだっただろうか。
私ですら、はっきり覚えているというのに…。
「そういう訳だから…。気になるなら君も会ってみたらどうだい?」
そう言って、グランは完全に闇へと消えていった…。
「楓香…か…」
残った私は1人、そう静かに囁いた―…。
蘇った記憶と嘗ての友
忘れてしまったのか…。
私や、みんなのことを―…。
to be continued...
(2017.11.15)
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