俺の使命と大切な仲間 (106/109)
【円堂視点】
アフロディの見舞いが終わった後、俺と吹雪は雷門中へと向かっていた。
病院を出る前、楓香に電話をした。このことを知らせるために。
『もしもし円堂くん?』
「楓香…!えとさ、あの…」
だけど、アフロディの怪我について知らせる前に、なぜかあのことが脳裏に浮かんだ。
『証明すると誓ったんだ…アイツにも…』
『アイツ…?』
『そう!お前のお気に入りにさ!』
『へぇ…会ったんだ…。やっぱり、やっぱりアレは楓香、だったんだね…』
『楓香!?どういうことだよ、ヒロト!』
『まさかあなた達…会ったというの…?』
ヒロトから放たれたその単語。俺はその単語に驚きを隠せないでいた。もちろん俺だけではなかった。みんなも、瞳子監督までもが驚いたんだ。
前にも似たようなことがあった。前はガゼルからだった。
やっぱり、やっぱり楓香はエイリア学園と関係があるのだろうか…。
そう思った俺は楓香に聞きたくて聞きたくて仕方なかった。
「あ…やっぱり何でもない…」
『…?そう…なら良いんだけど…』
だけど、やっぱり聞けなかった。
もし、もし仮に楓香が何かエイリア学園と関係があると言ったら?
もし、エイリア学園の一人だと認めてしまったら?
そうなると、俺たち雷門イレブンは楓香と敵、ということだ。
そんなの嫌だ。楓香は雷門イレブンの仲間なんだ。敵なんかじゃあない。
ずっとずっと、フットボールフロンティアの頃から支えてくれた。楓香は、歴とした雷門イレブンなんだ。
エイリア学園の一人と認めてしまうくらいなら、知らないままがいい。
知らないまま、楓香は雷門イレブンとしてここに残っていてほしい。
それは、きっとみんなだって一緒だ。
「それとさ…今日…アフロディが怪我…しちゃったんだ…」
『え…!?アフロディくんが…?』
「でもまだ軽いみたいで良かった」
『っ…そっか…良かった…』
ほら、これが本来の楓香の姿だ。心配性で、優しくて、いつでも俺たちに気遣ってくれる。
こんな優しい楓香がエイリア学園の仲間なはずがない。絶対に。
「うん…。今から雷門中帰るよ!」
『そっか…分かりました!』
俺は自分に何度も言い聞かせた。楓香は俺たちの仲間なんだ、敵ではない、と。
プツンと携帯の電源ボタンを押して電話を途切れさせると、ふぅと胸に手を当てて深呼吸した。そして隣にいる吹雪ににっと歯を見せて笑った。
「吹雪!雷門中、行こうぜ!」
「う…うん」
そして、俺たちは今に至る。だが、雷門中が見えてくると前から秋がやってきた。その慌てている様子からあまり良いことではないんだと察する。
そして告げられた言葉に俺たちはさらに驚くことしか出来なかった。
「」
ヒロトが瞳子監督に姉さんと言ったらしい。
そうなると、瞳子監督は…エイリア学園の仲間?
いろいろなことが頭を巡る。だが、どれが正当な答えかは分かるはずもなかった。
俺たちは調べるしかない。そのことを瞳子監督に聞くべく急いで雷門中へと足を入れた。
だが、俺はふと気付いた1つの影に足を止めた。
そこには1つの小柄な影。グラウンドで1人うずくまっていた。
「楓香…!?」
俺はすぐに分かった。楓香だ。あの影は楓香以外ありえない。
「どうしたの円堂くん!」
「楓香が…楓香がグラウンドにいるんだ!」
「え…?」
俺は返事など聞かず一目散にそこへと向かった。近付けば近付くほど、確信に変わっていく。
「楓香!」
「っ…円堂、くん…?」
俺が名前を呼ぶとその影は顔を上げた。やっぱり、やっぱり楓香だ。
俺はうずくまる楓香の元まで行くとしゃがみ込み同じ高さにした。今にも倒れそうなその身体を支えるとパチンと目が合う。
「楓香…大丈夫か…?」
その瞳からは今にも涙が溢れてしまいそうだ。いつもいつも俺たちに送ってくれていたあの笑顔は今ここにはない。
「ん…ごめん、ね…。ありがとう…大丈夫だよ」
「楓香…」
「ごめんなさい楓香ちゃん…私気がつけなくて…」
「秋ちゃんも…。大丈夫だから、ね…?」
楓香はゆっくり立ち上がる。それに俺は慌てて楓香を支えた。
楓香は…こんなに小さかっただろうか?
こんなに小さな背中をしていただろうか?
いつもより何倍も弱々しく見えて、俺はしばらくの間言葉を失っていた。
「帰ろう。楓香…」
「うん…」
俺は楓香を雷門中の門まで送った。だがそこで、今やるべきことを思い出してハッと息を呑んだ。
俺は、瞳子監督に聞かなければならないことがあったんだ。
そう思い出した俺は歯噛みして踏みとどまった。そんな様子に気遣ってくれたのだろうか。楓香はゆっくり支えていた俺の腕を離す。
「円堂くん…ここまでで大丈夫だよ…ありがとう…。行かなきゃいけないんでしょ…?」
「楓香…」
「私は大丈夫だから…ね!」
もう一度楓香は、もう大丈夫だから、と付け加えるように言うとそっと苦笑いする。本当は楓香にずっと付き添ってあげることがベストなのかもしれない。
だけど、せっかく楓香が気を遣ってくれたんだ。その想いを踏みにじることは出来ない。
「分かった…。気をつけて帰れよ…」
「…うん」
その優しい笑顔を横目に、俺は後ろ髪を引かれるような想いで再び雷門中の中へと入っていった…。
ごめんな、楓香…。
俺はゆっくり瞼を閉じ、そしてそっと開けると走るペースを少し上げた―…。
俺の使命と大切な仲間
どっちも、捨てきれないんだ―…。
だから、欲張りかもしれないけど、どちらも守りたいと思った…。
to be continued...
(2017.11.15)
(
back)