置いてきぼりの約束 (105/109)
「やぁ、久しぶりだね…楓香…」
突然私の前に現れた男。エイリア学園マスターランクチームのもう1人。グランもとい基山ヒロト。
私は彼を前に何もすることが出来なかった。
ガゼルやバーンと会った時とはちょっと違う。身体が硬直して、強張って、ピクリとさえ動かない。
やっと出来たとしても、出るのは震えた声でしかない。
「ずっと…ずっと探したよ…。君が去ったあの日からね…」
「私が去った…あの日…?それに…あなたは…」
「忘れちゃったのかい?」
久しぶり?あの日?
何も分からない。私は昔、彼と会ったことがあるのだろうか。何も分からなくて私はまた歯噛みした。
本当に忘れちゃっただけなのだろうか。最近はそれだけではない気がしていた。
本当なら、それほど大切なことは覚えているはずなんだ。
なのに、なのに、ピクリとも思い浮かばない。
おかしい。だって仮に忘れていたとしても、当の本人に会えば分かるはずなんだ。
なのに、彼らに会えば、なぜか震えて怖がって、記憶だけがモヤモヤしてしまう。
私がエイリア学園と関係ある、というのはもう恐らく逃げ切れない事実だろう。言い逃れが出来ないところまで来ているのは私が一番知っている。
でも、やっぱり思い出せないよ。大切だったはずなのに。
ガゼルとバーンを見て思った。彼らは、ああやって敵として現れて、憎まれ口ばかり叩いていたけれど、本当はいい人なんだって。
悪いことなんだって分かっているけれど、どうしても彼らを心から憎むことが出来なかった。
憎むことを、身体の本能が拒絶をしているようで、私は嫌いにはなれなかった。
思い出したい。だけど、思い出せない。
そんな想いが葛藤する中、またヒロトは私に追い討ちをかけた。
「あの日の約束…もうすぐ果たすからね」
あの日の約束。いったい何だろう。
怖くて、答えを探すのを恐れた。その彼の目が、エメラルド色の彼の目が物語っていた。
そんな甘いものではないんだ、と…。
「この戦いが終わったら、君を迎えにいく」
もう、やっぱり分からない。分からないよ。
思い出せる日は来るんだろうか。それさえも見当がつかない。
助けて。すれ違いざまに聞こえてきた彼の声。それがまた身体をブルッと震わせた。何度目だろう。その彼の瞳が、私の背筋を凍えさせる。ゾクッと身体中に寒気がさした。
異様な雰囲気が消え、肩にかかっていた重い何かが消えると、私はガクンと膝をついた。
体に力が入らない。私はしばらくの間立つことが出来なかった。
「だれか…教えてよぉ…」
私ハ一体、何者デスカ―…?
どんなに探しても答えなんて見つかるはずもなかった。
知っているのは、ヒロトと、私だけなんだから―…。
置いてきぼりの約束
私は、私は、
独りぼっち―…。
to be continued...
(2017.11.15)
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