いつかの純粋さと約束 (104/109)
【ヒロト視点】
「誰」
俺は今日の夕方、雷門中を訪れていた。ガゼルとバーンの試合を中断させた後に…。
「ヒロト…」
「今日は見苦しいところを見せちゃったね。でも安心して。ジェネシスに選ばれたのは俺だから」
「いったいどういうことなの」
あの日、父さんに呼ばれたあの日。俺は父さんの部屋に行った。そこでジェネシスには俺が選ばれたと告げられた。
もちろん嬉しさは募った。だけど、その嬉しさよりも勝ったことがその日に起きていたんだ。
『楓香…?』
そう、遂に、遂にやってきたんだ。俺の待ちに待っていた日が。
それは、ガゼルやバーンの言ったあの台詞によって確信に変わった。
『証明すると誓ったんだ…アイツにも…』
『アイツ…?』
『そう!お前のお気に入りにさ!』
俺の、お気に入り…。
そんなの、決まってる。あの子しかいない。考える暇さえなくあの子の笑顔が脳裏に浮かんだ。
やっぱり、やっぱりアレはあの子だったんだ、と。そう確信した俺は小さく笑みを浮かべた。
「それじゃあ、待ってるから……姉さん」
最終決戦はもうすぐそこだ。
最後の対戦相手は俺たち、ザ・ジェネシス。この試合に勝てば、俺の夢は叶う。父さんのためもある。だけど、俺のための試合でもあるんだ。
俺はそう姉さんに告げるとゆっくり背を向けて歩き出した。
そして、その俺の想いを尊重するかのように、俺の前にあの子が姿を現した。
忘れるはずもなかった。いや、忘れられなかったその姿。
今でも微かに残るその面影に、俺は静かに口角を上げた。
変わっていない、その純粋な姿。羨ましくもキラキラと煌めいているように見えた。
「やぁ、久しぶりだね…楓香…」
あぁ…やっと、やっと会えたんだね…。
本当に、何年ぶりだろうか。とても懐かしい、愛おしい。
これでも緊張していたんだ。ずっとずっと会えなかった楓香に、こう話しかけるのは。
「ずっと…ずっと探したよ…。君が去ったあの日からね…」
「私が去った…あの日…?それに…あなたは…」
「忘れちゃったのかい?」
俺は1日たりとも忘れたことはなかった。君の、楓香のことを…。
だけど、楓香のその様子を見て愕然としてしまったのは事実だ。ちょっぴり残念だったりする。
楓香の声は震えている。怯えているのか。だけどその表情さえ俺を狂わせてしまうんだ。会えなかった数年を埋めるのはそう簡単ではないからね。
「あの日の約束…もうすぐ果たすからね」
もうすぐ…もうすぐで叶うんだね。俺の願いは…。
いつかの純粋さは、もう俺にはない。その台詞でさえ狂気じみているんだろう。
だけど、構いやしない。楓香が、愛おしい楓香がやっとこの手に入るんだ。
ずっとずっと待っていたんだ。この日を。
俺は意味ありげに口角を上げるとゆっくり震え怯える楓香の横を通り過ぎていった。
「この戦いが終わったら、君を迎えにいく」
そう、すれ違いざまに囁いて―…。
いつかの純粋さと約束
あの時はまだ、違う意味だったのかもしれない。
だけど、狂い始めてしまったらもう、直らないんだ―…。
to be continued...
(2017.11.15)
(
back)