狂気じみた緑の瞳 (103/109)



私は今日1日、そわそわしてならなかった。試合の様子はどうなんだろう。みんな怪我はしていないだろうか。それに、ガゼルとバーンは…。

いろいろなことが頭を過ぎる。


時折私は帝国学園に足を向けた。だけど、瞳子監督に言われたあの言葉を思い出しては踏みとどまる。その繰り返しだった。

怪我してなければ…。みんなが無事ならば…。私はただただ応援に行けない悔しさに歯噛みしながらもみんなの安全を祈っていた。


そろそろ落ち着いただろうか…?

時刻はもう夕方6時頃。きっと試合はもう終わっている。勝ったにしろ落ち着くまでには時間がかかるだろう。

日はオレンジ色を増している。怪我等の嫌な連絡はまだ来ていない。怪我せず終えていることを祈りながら、私は勇気を出して誰もいないこの家を出た。

1人になれば、彼らに会う可能性だってある。だけど、私は落ち着かずにはいられなかった。


眩しいオレンジ色の光が目に染みる。私はその光に目を細めながらもひたすら雷門に向けて足を進めていた。


だが、雷門中を前にして突然私の携帯は音を鳴らす。ビクンと私は肩を震わせた。そして恐る恐るポケットから携帯を取り出す。


「円堂くんからだ…」


背面画面には"円堂守"の三文字。その着信は円堂くんからだった。

その三文字に安堵のため息をつくと、不安と期待を抱きながら私は携帯を耳に当てた。



「もしもし円堂くん?」

『楓香…!えとさ、あの…』

私はその円堂くんの声に首を傾げた。電話越しからでははっきりとは分からないが、その声から何かもの言いたげな様子が伺える。

口ごもる円堂くんに私は何も言えないでいると、円堂くんはその沈黙を破った。


『あ…やっぱり何でもない…』

「…?そう…なら良いんだけど…」


何か言いたかったのは事実。何でもないと言われたら余計聞きたくなるのが人間の本能だろう。本当は聞きたかった。だが、私はぎゅっと堪えその言葉を口には出さなかった。



『それとさ…今日…アフロディが怪我…しちゃったんだ…』

「え…!?アフロディくんが…?」


一番聞きたくなかった知らせ。怪我をしたという知らせ。

やっぱりその知らせを聞くと胸が締め付けられるように苦しくなる。

せっかく、仲間に入ってくれたというのに…。



『でもまだ軽いみたいで良かった』

「っ…そっか…良かった…」


私はまた、歯噛みした。また、また、1人犠牲者が出たんだ。軽傷でも重傷でも怪我は怪我なんだ。軽傷というのは不幸中の幸いというだけ。

確かに少し安堵したものの、胸の締め付けはなくならなかった。



『うん…。今から雷門中帰るよ!』

「そっか…分かりました!」


もしかしたら円堂くんと会えるかな。そんな淡い期待を抱きながら私は再び雷門中へと進めた。

雷門中に着くと私はグラウンドを見つめた。ゆっくりゆっくりグラウンドへと足を進める。

誰もいなかった。静かで淡々と時が過ぎていくようだった。


だが、ふいに感じた異様な気配に私は身震いした。

前から一つの影がやってくる。その影はゆっくりゆっくり私に近付いてくる。

そしてようやく顔が認識出来るところまで来ると、その彼は驚いたように目を見開いた。だが、それはほんの一瞬で、ゆっくり瞼を閉じ、不適に口角を上げると私の前までやって来た。


私はその間、彼の雰囲気に、異様な違和感にずっと動けないでいた。

ピクリとも動けない。視線を逸らすことすら出来ない。

怖くて、怖くて、ただただ震えた…。



「やぁ、久しぶりだね…楓香…」




狂気じみた緑の瞳


エイリア学園最後の1人。グランもとい基山ヒロト。

私は彼の瞳に、彼の存在に、記憶が抉られるような感覚になった―…。


to be continued...
(2017.11.15)

[bkm]

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