届かないこの距離 (102/109)
【佐久間視点】
あれから2日後。いよいよあの日がやってきた。雷門対カオスの戦いの日が。
結局俺はあの日朝比奈を助けることは出来なかった。悔しさは募るがこればかりはどうしようも出来ない。これは、朝比奈自身との戦いだったから。
でも、それでも力になれることはあるはずなんだ。思い出せないというソレの手掛かりになることがきっとどこかにある。その僅かな希望を胸に抱き、俺は観客席で雷門イレブンを見つめていた。
「そろそろ来る頃だな…」
そしていよいよ、準備運動を進める雷門イレブンの前にカオスが現れた。
「おめでたい奴らだ」
「負けると分かっていながらノコノコやってくるとは」
「円堂守!宇宙最強のチームの挑戦を受けたこと、後悔させてやる」
「負けるもんか、俺たちには地上最強のチームがいるんだ」
「勝負だ!」
そんな台詞で始まった雷門対カオスの試合。
初めはカオスに流れが向いていた。圧倒的な強さを前に、ガゼルやバーンの猛攻が続く。そしてまだ前半だというのに雷門はあっという間に10点も奪われてしまった。
だが、ゴールキーパーを襲う強烈なシュートを円堂は必死のクリア。危機はなんとか逃れた。
その流れを生かし、雷門は一気に駆け込む。そして特訓の成果、デスゾーン2が発動された。
デスゾーンはそのままゴールを割り、得点は1対10。
だがそれからも平行線が続きしばらく経った時、突然それはやってきた。
天からまた、あの黒のボールが降り注ぐ。
「あれは…!」
「みんな楽しそうだね」
ボールと共に聞こえてくるその声。俺たちはパッとそこを見た。
そこには1人の男…。
「ヒロト!」
「やぁ円堂くん」
そのヒロトという名の男は軽い笑みを浮かべるとパッとグラウンドに降りてきた。
俺はその様子をただただ眉を寄せて見つめる。
「お前…いったい何しに」
「今日は君に用があって来たんじゃないんだ」
ヒロトは円堂に向けて口角を上げた後、表情を一変させてカオス陣地へと目を向けた。
「何勝手なことをしている」
「俺は認めない!お前がジェネシスに選ばれたことなど!」
「選ばれた…?」
「我々は証明してみせる!雷門を倒して誰がジェネシスに相応しいかを」
ここまでの話であの日話していたことがようやく理解出来た。ジェネシスに選ばれたというのはヒロト。そのジェネシスの称号を奪い取るため、彼らは立ち上がった、と…。
「証明すると誓ったんだ…アイツにも…」
「アイツ…?」
「そう!お前のお気に入りにさ!」
ガゼルに続きバーンもそう言葉を紡ぐとヒロトに向かって指を突きつける。
ここまでヒロトの表情は一切崩れなかった。だが、その台詞でヒロトの眉はピクリと動く。
アイツ…、お気に入り…。
それは恐らく朝比奈のこと。
ヒロトが反応したとなると、やはり朝比奈は何かエイリア学園と関係があるのか…。
そう思い俺の目はより一層キツくなった。
「へぇ…会ったんだ…。やっぱり、やっぱりアレは楓香、だったんだね…」
「楓香!?どういうことだよ、ヒロト!」
「まさかあなた達…会ったというの…?」
雷門の監督、瞳子監督までもがその単語に過剰反応した。
一体どういうことだろう。ここから先は俺にも分からない。
「こんなところで止められるかよ!」
「…往生際が悪いな」
だが、その先のことも詳しく話さないまま、カオス一同は白い光に包まれる。
去るのだ。このままではカオスやヒロトが去ってしまう。
俺は立ち上がった。だが、その距離を縮められぬまま、光の色は濃くなった。
「待て、ヒロト!」
パッと白い光が帝国グラウンドに降り散る。眩しさから目をようやく開けた時には既にカオスはいなかった…。
「っ…くそっ…」
何も出来なかった悔しさ故、俺はぎゅっと右手に力を込めた―…。
届かないこの距離
手を伸ばしても、距離が縮まるはずもなかった―…。
to be continued...
(2017.11.15)
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