揺れる記憶と笑顔 (100/109)
「っ…ガゼル…バーン…」
私は目の前にある赤と青の影に目を見開けた。そう、やってきたのだ。私の前に。
「よォ…また会ったな」
「なぜあの日、来なかった…」
2人は余裕な笑みを浮かべて私を見ていた。彼らと直接会うのは二度目。
前ガゼルと会った時もこんな感じだった。突然私の前に現れては不思議なことを言っていく。今回だってそうだ。
「あァ?あの日ィ?」
「あぁあの日だ。それに私はお前になど聞いていない。コイツに聞いているんだ」
「おいおい、ひでーなその言い方。つーか分かんねぇよあの日じゃ」
「チッ…円堂守と戦ったあの日だ。来いと言ったつもりだったのだが…」
「あ?じゃあ来てただろコイツ」
「私は知らん」
突然来たと思えば…私をほったらかして2人で話をしている。いったいなんだろう。
しばらくギャーギャーと言い争い(というよりも一方的にバーンがガゼルにキレてる状態)が続くと落ち着きを取り戻したのか2人はパッとこちらを見た。
訳が分からずしばらく緊張感を忘れていた私だったが、その行動により、一気にドクンと心臓が跳ね上がる。
いよいよ本題、というところだろうか。
私はゴクンと息を呑むと2人はニヤリと含み笑いをした。
「どうやら明後日俺たちが試合するの知ってるみてーだな」
「ふっ…なら話は早い。次こそは来るんだろう…」
「っ…」
私はぐっと息を呑んだ。私は、私は、行けないんだ。
行けない悔しさに歯噛みするもゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私は…行かない。行けないの」
「行けない?」
「瞳子監督に…来るなって言われてるから」
私は真っ直ぐ真剣に2人を見据えた。逃げてはいけない。俯いてはダメなのだから。
「ほぅ…。では、大切だというのはあの人も変わらないということか」
「え…?」
「まぁいい、今回は見逃してやろう。だか、最終的にジェネシスに選ばれるのは私たちだ」
大切だっていうのは、変わらない…?
何を言っているの?
どういうことなの?
「俺も若干忘れてたんだけどよー。その顔はマジで忘れてんのか?」
「忘れてるって…何を…?」
「話はそこまでだバーン。そろそろ行くぞ」
「へいへい」
2人のその言葉を境に、2人の周りには黒い霧が渦巻く。
彼らが去ってしまう。何も分からないまま、また去ってしまうのか。
嫌だ。待って。まだ聞きたいことがいっぱいあるの。
「待って…っ…!風介…晴……っ!?」
今、私は何て言った…?
自分の言ったことが、理解出来ない。訳が分からない。
なぜかふいにそんな言葉が出た。全て無意識だった。
「じゃあな、楓香」
「また会おう」
「っ…」
また、私は何も分からなかった。
また、訳が分からなかった。
私だけが繋がらない。
私はいったいなんなの?彼らとはどんな繋がりがあるというの?
「っ…もう…分からないよ…」
どうして、胸がこんなに痛いんだろう…。
彼らと関わる度、抉られるように胸が痛む。
この痛みの意味も、今の私じゃ分かるはずもない。
揺れる記憶と笑顔
最後に一瞬だけ見えた2人の笑みが、妙に頭に残った―…。
to be continued...
(2017.11.15)
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