結構有名な花火大会が近くであると聞いて、翼と一緒にやってきた。大して来たかったわけではなかったのに、翼に半ば脅されるような形で連れてこられた。遡ること数日。
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「なあなあ梓」
「やだ」
「ぬー!まだ何も言ってないのに!」
「嫌な予感しかしないもの」
翼が目を輝かせて話し掛けてくるとき、これは危険信号。いきなり用件を言わずに一度間合いを置いているのも怪しい。前に発明品の実験台になってほしいと言われた時にははっ倒してやろうかと思ったほどだ。
「嫌な予感ってなんだよー!一緒に花火大会行こうって言おうとしただけじゃんか」
「めんどくさいからやだよ。人混み嫌い」
「身長小さくて人に埋もれるからって…俺が守ってやるから!」
「…それ以上言ったら蹴る」
自分の言ったことに気付いた翼ははっと口を両手で隠した。そんなことしたって言ったことは戻らないんだぞ?自分は身長大きいからって…翼の奴。
「ごめんちゃい、梓。なーいいだろ?いこうよ」
「めんどくさい」
「じゃあ発明した花火ここで打ち上げる」
「は?」
「打ち上げる。こんな部屋こっぱみじんなんだからな」
木端微塵って言ってる時点でそれはもう花火じゃないからね、翼。心の中でツッこむけれど今の翼だったらそれもやりかねない。だって、翼の目が本気。花火大会に行かないだけで住む部屋を爆破されちゃたまったもんじゃない、そのあと一体誰が謝りに行くと思っているんだか…。
「わかったよ、行く」
「やった!さすが梓!」
「脅しといてよく言うよね」
「知らないぬーん♪」
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そんなやり取りをして今に至るわけだ。有名な花火大会だけあって、人の数は予想通り多い。場所を取ろうとせかせかと歩く人波の中、適当な場所に位置を取り花火が上がるのを待とうとした。
「あれ?木ノ瀬?」
聞き覚えのある声に横を見ると見覚えのある顔。
「暁さん」
「なんだー木ノ瀬も来てたのか!」
「ええ、まあ」
暁さんがいるということは…と頭に嫌な予感。軽く周りを見渡して嫌な予感が現実にならないことを願う、だって面倒なことになるって目に見えていたから。
「なぁ、梓、この人誰だ?」
「翼は初めてだっけ。えっと、この人は暁藍さん。中学のときお世話になった人」
「ふーん」
「はじめまして、木ノ瀬と弓道してた暁藍、よろしくな」
「うぬ!俺、天羽翼」
ニコニコしながら握手を交わす二人。暁さんは年上だけどそう見えないというか、親しみやすい雰囲気といえばいいだろうか。そんな暁さんに翼も人見知りしないで話すことができているのを見て一安心。したのも束の間。
「へぇ、俺とも、よろしくしてほしいな」
暁さんのすぐ後ろから出てきたのは射弦。いるだろうと思ってはいたけれど、一体どこから現れたのか。できることなら会いたくなかったというのが本音。
「梓も、花火大会、くるんだね」
「射弦こそ」
「なに?そんなに嫌そうな顔、することないのに」
射弦の問いかけに適当な笑顔で返してやろうとすると、僕の前に翼が出てきて射弦と向かい合った。その顔は天敵でも見るようなそれで、僕の頭がこれはまずいと警報を鳴らす。翼と射弦、今まで会ったことはないけれど、絶対にあわない。性格というかなんというか、とりあえず絶対にあわない。そんな二人が対峙した時に面倒なことになるのは目に見えていて、だから翼と一緒のときには会いたくなかったんだけど。
射弦はムッとした顔で見ている翼に、垂れた目をスッと細めて笑顔を向けた。
「あんまり睨まないでよ」
「無理!」
「ま、仕方ないか。…君、梓のトクベツ?」
「ぬ?」
「こら!いーづーる!!!」
きょとんとする翼を見て間髪入れずに割って入ったのは暁さんだった。
「お前なーすぐそういうこと言わないの!ごめんなー二人とも…」
「藍はほんと、うるさいよね。小姑みたい」
「小姑いうな、まったく!」
口の悪い射弦に謝るのはいつも暁さん、この構図は昔から変わらない。この射弦と一緒にいられるって一種の才能だよな、と心の中で密かに思う。
「お邪魔しちゃいそうだから俺達他のところ行くな。木ノ瀬に天羽君も、なんかごめんなー射弦がこんなだからー…」
「俺が、なに?」
「いーから!お前しゃべるとややこしくなるんだって」
「えっと…暁さん、頑張ってください、ね」
射弦の腕を引いて連れてこうとする暁さんの後ろ姿に小さく労いの言葉を投げかけたけれど、五月蠅くなりだした花火大会の雑踏のなかでその耳まで届いただろうか?少し前に立っている翼の顔をちらりと覗き込むとまだきょとんとした顔をしていて。
「翼、大丈夫?」
「…俺って、梓のトクベツ?」
「は?」
「…トクベツ?」
首をかしげて眉をハの字にしながら問いかけてくる翼。途中から反応が無いと思ったらそんなことを考えていたのか…聞き流してしまうそうな一言にこんなに一生懸命悩んじゃって。なんで、こんなに一緒にいるのに気付いてくれないんだろう。こういうところで翼は臆病だ。
「じゃなかったら、一緒に来ないよ」
だから、ちゃんと言ってやらないと分かってくれない。僕の少し高い自尊心を崩して、口に出すと、翼はこれでもかってくらいの笑顔を向ける。こういうところが、憎めないよね。
「ほんと!?」
「ほんとほんと」
「ぬはは!梓も俺のトクベツだぞ!」
「はいはい。ほら、始まるよ」
大きな花火が夜空に咲いて、散っていく。降ってきそうなほどの光の粒はとても綺麗、翼の笑顔が花火の光で照らされて、それもとっても綺麗。
「梓ー綺麗だなー」
「うん」
梓も俺のトクベツ、翼の言った言葉のせいで自然と緩む顔。花火のように消えてしまわないように、胸の中に静かにしまっておこう。
夏、閃光、幻夜
title:サーカスと愛人
いづあいside
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猫澤さまへ!
「翼といづるが梓とりあい or 翼梓といづあいダブルデート」とのリクエストをいただきまして、翼梓といづあいのダブルデートの方を書かせていただこうとしたのですが…射弦と翼があまりにも仲悪くってダブルデートになりませんでした…申し訳ありません。翼は射弦に対して敵意剥き出しって感じなんじゃないだろうか、と思っております(´ω`)笑
リクエスト、どうもありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いいたします。
しぎみや
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