色とりどりの火花が飛び散るグラウンド。日は沈みきって紺色に変わり、日中の茹だるような暑さも大分おさまった夏の夜。飛び交う笑い声は楽しそうなそれ一色。

「うわー!これ綺麗!みてみて梓!」
「ちょっと、こっち向けるな翼!」
「ぬっふっふー」

事の発端は翼だった。生徒会の仕事をしながらふと思い立ったように「花火がしたいぞ」と漏らしたのを聞いた不知火会長がそれに便乗して花火をすることが決まった。そこになぜ僕が一緒にいるのかというとこれも翼の所為、「梓も呼んでいいか?」と僕の名前を出したから。それなら一緒に、と金久保先輩と宮地先輩も一緒に連れられてグラウンドには生徒会メンバーに金久保先輩、宮地先輩、そして僕。みんな一緒の方が楽しいもんね、と笑う夜久先輩を前に帰ることもできず今に至る。

「梓ー!つぎこれやろう!」
「はいはい」

次の花火を翼に手渡されてそれを受け取った。細い手持ち花火にはキラキラしたフィルムが巻きつけられていてかわいらしい。小さい頃に戻ったような懐かしい思いになったりして。先の方を火に近付けていると同じところに翼も入ってきて、火をつけるのを邪魔するかのように先の方を当ててきた。

「どっちが先に火つくか競争だぞ」
「子供じゃないんだから」

そう言いながらも、翼が楽しそうに本当に子供のように笑顔を浮かべているもんだから、それにつられて火をつけることに一生懸命になってしまう。パチッ、先に火がついたのは翼の花火で、梓の負けー!と火のついた花火を振りながら少し離れた所へと駆けて行った。振り回した手持ち花火から零れる火花が蛍のようにあちこちに飛んでは消えて、普通に持つよりも幻想的。花火の光の中に居る翼の楽しそうな姿をぼんやりと眺めた。遠くから不知火会長の声が聞こえる。

「翼、振り回しすぎるなよー」
「うぬ!ぬいぬいもじじくさく線香花火ばっかりしてるなよー」
「こら、じじくさいとは何だ、じじくさいとは!」
「ぬーん」

じゃれ合う二人の会話を不知火会長の隣で金久保先輩が微笑みながら聞いていた。周りを見渡すとそれぞれの場所で、色とりどりの火花を散らせて花火を楽しんでいるのが目に入る。

(ああ、そうか)

翼がやけに楽しそうに見える理由。きっとみんなでこうして一つのことをしているこの瞬間が楽しくてしかたないんだ。花火をこんなにも大勢ですることだって何時ぶりだろう、翼は小さい頃にできなかったことを埋めるようにこの時間を楽しんでいて。翼にとってそんな時間が、子供のように笑える時間が増えることが僕は嬉しかった。僕としか会話をしないくらいだった入学当初とは全く違うこの現状、これを、僕は喜んであげられないといけない。いつまでも、僕だけを見ていてくれる訳じゃないんだから。

バチッ!

「ったー…」

全く別のことを考えていたことを咎めるように手元で跳ねた火花。思わず離した花火は土の上に落下して残りの輝きを放って静かに消えた。ふっと周囲が暗くなるけれどぼんやりと火傷で赤くなっているのが分かった。火花の跳ねたところがじんじんと熱を持っている。冷やして来ようと水道の方へ向かおうとすると、その腕をぐっと掴まれた。

「翼?」
「梓、火傷したでしょ」
「ちょっと火花が跳ねただけ」
「火傷したには変わりない!俺にあんだけ危ない危ないって言ってたくせにー…ぬー…連行します」
「へ?ちょ、ひっぱるな」

怒ったように口を尖らせてずんずんと僕の腕を引いていく。それなりに離れたところにいたから見てないと思っていたのに、どうして気が付いてしまったんだろう。ねえ翼、こんなの大したことないんだから、そんな顔しないでよ…。さっきの楽しそうな顔とは打って変わって心配そうにする翼の顔を見たら胸がぎゅうっとした。水道の蛇口を捻ると溢れてくる水、そこに火傷した皮膚をくぐせば冷たいのとじんじんするのが相まって感覚がおかしくなる。翼の手はまだ僕の手を掴んだまま、なんだか逃げないように押さえているかのようで。

「もう大丈夫だからさ、翼あっちもどってていいよ?」
「だーめ」
「折角楽しそうにしてたんだから。こんなの大したことないし」

グラウンドの端にいる僕たちの位置から少し離れたところに花火の光が小さく見える。そちらに目を向けて促したけれど、翼は腕を離そうとしない。眉をハの字にした翼が僕の方をじっと見つめた。

「大したことあるぞ。こんな顔した梓置いていけない」
「どんな顔か知らないけど、いいから!あっちで楽しんで待っててよ」
「やだ」
「…楽しんでる翼がみたいんだよ」

そんな悲しそうな顔じゃなくて。
はあ、と大きく溜息をついた翼は掴んだままの腕を引いて僕を抱きしめた。

「俺ね、書記とかぬいぬいとかそらそらとか武士とかのっぽ先輩とかみーんないても梓がいなかったらあんな風にいられないぞ」

出しっぱなしの水道の水が落ちては出て落ちては出て、絶えず石造りのそれを打ち付ける。

「少しだけ世界が広がったけど、やっぱり俺は梓がいないとだめだから」
「…」
「でもって、梓が笑っててくれないと俺も笑ってらんない。だから、」

笑って?梓。

耳元で小さく聞こえたその言葉と重なった唇。悲しそうな顔をしていたのはきっと翼じゃなくて僕の方、翼がいないとだめなのはきっと僕の方だ。翼を独り占めしていたいと思っていたのは、間違いなく僕。見透かしたようなキスに胸が早くなるどころかとても落ち着いて、翼が無くてはならないものだと告げている。離れた唇、見上げるようにして見た翼の顔はさっきみたいに笑顔が浮かんでいて、それは僕も同じだろう。鏡のように翼は僕の表情を映しているから。

「もう、大丈夫だから。一緒に向こう戻ろう、翼」

そう言うとひどく嬉しそうに頷かれて、その上手をぎゅうっと握られて。仕方なく、仕方なくだけど何も言わずにその手に引かれた。一発大きく上がった打ち上げ花火は靄が消えたように綺麗に目に映った。不思議とキラキラ消えていく火花が流れ星のように見える。繋いだ手を静かに握り返した。



この手のせい、すべて


title:サーカスと愛人




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ぬこちゃん誕生日おめでとうございます!
翼梓になっているかすごく心配だし、花火ネタなの…か?という感じではありますがプレゼントさせてください(´▽`)この1年がぬこちゃんにとってすてきな1年でありますように…!ぜひぜひまた絡んでね、ぬこちゃんだいすきですよーう!

しぎみや



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