いくらノックをしても開かなかった翼の部屋の扉を引いて見ると、鍵は開いたままになっていて、僕はそのまま中へと入った。7時を過ぎて、外は大分暗くなっているのに翼は電気も点けずに部屋の真ん中に座って発明をしている。その翼の周りにはネジやらペンチやら見たこともない器具やらが散乱していて足の踏み場もない。

「電気も点けないでなにしてるの」

部屋の電気を点けて声をかけるけどその声も今の翼の耳には全く届いていないようだ。翼はいつもこう、熱中すると食べることも寝ることも忘れて発明を続ける。まったく、倒れてもしらないんだから。そう思うくせに、冷蔵庫を開けて何か作れるものが無いかと材料を探してしまうあたり、僕は翼に甘いんだろう。


炒めたご飯を卵で包んでオムライスのようなものを作った。翼の背中を蹴飛ばすとその身体が前のめりになった。

「うわ!」
「ほら翼いい加減にして」

ようやくこっちを向いた翼。いたいぞーと背中をさすって抗議をしてくるけど、僕の手に持っている夕飯を見て目を輝かせた。

「なあなあ梓、それ俺の?」
「そうだよ、折角作ってあげたんだからちょっと手休めて」
「わかった!!待ってて、今テーブル片付ける!」

子供のような笑みを浮かべてテーブルの上の器具を片付け始めた。片付けると言ってもとりあえず床の上に移動させているだけだけど。ものが無くなったテーブルの上にオムライスもどきを置いて、翼の隣に座った。

「ぬはは、いっただきまーす」
「どうぞめしあがれ」
「あれ?梓は?」
「僕はとっくに食べてきました」

なんだーと残念がる姿は耳を垂らした大型犬のようで、ちらりと時計の時刻を確認した翼が驚いて声をあげた。

「うえ、もうこんな時間だったのか」
「そうだよ、いつからやってたの?」
「えっとー…帰ってきてからずっと?」
「呆れた。で、今回は何作ってんの」

散乱している材料の中に転がっているのは何やら怪しげな銃器の形をしていた。手に取ってみると結構重くて、これから戦争でもしに行くのだろうかと疑問が浮かんでくる位のものだった。SF映画にでも影響を受けたんだろうか。手にとって見ていると、翼がそれをひょいと取り上げた。

「だめだめだめ!危ないから梓はいじっちゃだめー!」
「危ないって…また爆発するってこと?」
「そうじゃなくて!これは戦闘用なんだ」
「戦闘用?誰と戦うの」

一体誰と戦おうとしているのか、生徒会の人たちか同じクラスのやつらなのか…またくだらない理由なんだろうと思って言葉を待っていたけれど翼の顔はいたって真面目で。その真面目な顔で本当に理解しがたいようなことを言うから開いた口が塞がらなくなった。

「誰とじゃなくて世界!世界と戦うんだぞ」
「はあ?」
「あー!呆れた顔するなよ梓!俺本気なんだから」

テーブルをひっくり返しそうなくらいの勢いで言う翼、食べかけのご飯が零れてしまいそうになったのをそっと手で押さえながら制止させた。とりあえず、とりあえず意味が分からないけれど理由くらいは聞いておいてもいいだろう。

「えーっと…なんで世界と戦おうと思ったの」

質問をすると翼はきょとんとした顔をして、少し悩んだ後に口を開いた。

「梓に宇宙をプレゼントしたくて」
「…え?」
「ほんとは秘密にしておきたかったんだけどなー」
「…は?」

満足そうに話す翼と対照的な僕。全く理解ができない。理解ができないどころか意味も分からない。一体どういう経緯でそんな発想に至ったのだろうか、翼の頭の中はある意味本当に天才のそれである。どういう流れでそこに辿り着いたのかを説明しないで結果だけを言ってくるから訳が分からないんだ、というのももう慣れたもので一つずつ聞いていくしかない。

「宇宙をくれるのと世界と戦うのとどういう関係があるんですか、翼くん」
「ぬ?なんだ梓、今日の宇宙論の授業聞いてなかったのか?!」

いや、聞いてたよ。前半ずっと寝てた翼よりは大分真面目に聞いてつもりなんだけど。なにか、翼の興味を引きそうな話してっけ、と考えてみるけど思い当るところが見つからない。得意げな翼はにっこり笑って話を続けた。

「宇宙条約第2条」
「宇宙条約…?たしかに今日言ってたけど」
「『月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とならない』つまり、世界中を敵に回して戦って、それに勝ったら梓に宇宙をプレゼントできるって、そういうことだろ」

返す言葉が見つからなくて、俯く。聞き流してしまうような授業の言葉に一生懸命な翼、それでそれが僕のためだなんていうんだから。少しだけ熱くなった頬を自覚して居た堪れなくなっているととどめをを刺すかのように翼が言う。

「俺、梓のためだったら世界中を敵に回したっていい」

恥ずかしげもなく、思っていることをそのまま口に出したっていうようなそんな顔で、まっすぐに僕の方を見つめる翼。いよいよ赤くなった頬は隠しきれなくなって、まっかになってる、と頬に触れる翼を睨むことしかできなかった。

「僕は翼がいればなんだっていいよ」

絞り出した言葉はなんだか自分でもよく分からなくって。色々言いたいことがあったんだろうけど結果的に出てきたのはその言葉で、きっとそれが一番だったんじゃないかと思う。どうしてその言葉に行ったか経緯が分からないなんて、僕も人のことを言えない。

「だから発明ばっかしてないでご飯食べてちゃんと寝ろ!」

恥ずかしさで大きくなる声、背を向けて立ち上がろうとしたら腕を引かれて翼の腕に抱きしめられた。

「ねえ梓、もっかい言って」
「…発明ばっかしてないで食べて寝ろ」
「その前」
「…やだ」
「嬉しかったのに」

耳元で聞こえる声に心臓の音が大きくなって、近づいてきた翼の顔に目を閉じた。


世界を敵に回しても



(もっかい言ってやってもいいよ)
(翼がもう一度言ってくれたなら、ね)








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射月さまへ!
0212、シチュエーションのほうはこちらで好きなように書かせていただきました(´ω`)少しでも楽しんでいただければ幸いです。
リクエスト本当にありがとうございました!どうぞまたよろしくお願いいたします!

しぎみや





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