梓→龍


練習が終わって急いで道場をでる。宇宙工学の授業の課題を先生に提出しに行かなければならなかったからだ。提出期限は今日の6時、急いで行けばぎりぎり間に合う。提出期限をうっかり忘れていた僕、気付いたのは練習後に携帯を開いて見た翼からのメール。『梓課題だしたかー?めずらしく木ノ瀬の提出がまだだって、先生いってたぞー』僕らしくもなく、うっかり提出を忘れていた。練習に行けば宮地先輩を見れる、なんて考えていたせいだろうか。出てくるときに、宮地先輩が着替えているのが見えた。もう少し遅く出たら、先輩と話ができたかもしれないのに…そんなことを思っても自業自得。小さく溜息を吐いて道場を後にした。

「あ、木ノ瀬君。お疲れ様」
「金久保先輩、お疲れ様です」

丁度同じく道場を出た金久保先輩。にこりと微笑みを向けられたから、ぺこりと頭を下げる。

「途中まで、一緒にどうかな?」
「あー…実はこれから課題を提出しなくちゃいけなくて」
「課題?」
「提出するの、うっかり忘れてたんですよね」
「木ノ瀬君にしてはめずらしいね」
「本当に。なので、先に失礼します」

もう一度頭を下げてその場を後にすると、金久保先輩が気をつけてね、と労りの言葉をかけてくれるのが聞こえた。





課題を提出したのは6時になる10分前。急いだかいもあり期限には間に合ったけれど
珍しく木ノ瀬が遅いから心配したぞ、と先生に半ばからかわれるように言われたから、そこまで完璧な人間じゃありませんよ、と返してきた。そう、他のことでいっぱいいっぱいになったりする、そんな普通の人間。その原因を、分かってはいるけれど認めたくなくて、それでも求めてしまって。もしかしたら、帰り道にまだ宮地先輩が歩いているかもしれない…なんて考えて早くなる歩調に自分のことながら、呆れてしまう。
辺りを見ながら早歩きで歩いていけば、思った通り、見えた宮地先輩の後ろ姿。

(あ…)

けれどその隣にいるのは同じく見慣れた金久保先輩の後ろ姿で。きっとあの後すぐに宮地先輩が出てきたところだったのだろう。遠くに見えた宮地先輩の笑う顔、金久保先輩と何を話しているのだろうか。そんなことを考え始めれば、心の中は靄がかかったようにくすんでいく。鳩尾の辺りがきゅっと絞められるような感覚に息苦しさを覚えた。こんな感覚、今まで知らなかったのに。先輩のことを意識するようになってから、時たま訪れるこの感覚。どうやって治したらいいのか分からなくて、ただただ耐えることしかできなくて。
ねえ宮地先輩、何を話しているの。そんなに、笑顔を見せないで。勝手な独占欲、そして渦巻くのは嫉妬の気持ち。二人の後ろ姿を見ることが嫌で、逃げるように違う道を選んだ。


壊れる前に壊したい


(こんなに恋がつらいのなら)
(この心が壊れてしまう前に)
(この恋心を壊してしまおうか)





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