いづあい


誕生日が来ても、大して嬉しいとは思わなくなったのはいつからだろう。自分でも自分の誕生日を忘れてしまうくらいに365日あるうちの1日、というような感覚しか持っていない。思いだすのは、朝起きて学校に行く前に母さんと弓弦が「おめでとう」と言ってくれるのを聞いたとき。ああ、そういえばそうだったって。そして藍のことを想い浮かべる自分がいる。

(藍は…覚えてるかな)

人の誕生日とか覚える気が無い所為で、知っているのは弓弦と藍の誕生日だけ。俺でさえ藍の誕生日を覚えているんだから、いくら間抜けな藍だって覚えているんじゃないかって、少しだけ期待をしてしまう、藍が祝ってくれる、その一言を。誰に言われるよりも、それが嬉しいことだから。

(あ、そっか。俺、年取ったのか)

当たり前なことだろうけど、俺にとって、それは結構重要なことだったりする。年を取る、それはつまり一つ年が上の藍と同じ年になれる瞬間。次にくる藍の誕生日までほんの20日ほどだけれど、その間は"年下"じゃなくて対等にいられるような気がして。別に年が違うことを気にするわけじゃないけれど、ただ漠然と、その差が埋まるということに喜びを覚える。


学校へ向かい歩いて行くと、後ろから藍が走りながら追いかけてきた。

「おい、射弦!待てって」
「おはよう藍、今日も遅かったね」
「遅くない、いつも通りに出たんだぞ」
「じゃあ藍の足が短いから遅かったんじゃない?」
「お前な、もっとこう、思いやりとかそういう言葉を覚えてくれよ」
「藍相手だからいいでしょ」

まったく…少し頬を膨らませて横に並ぶ藍。急いできた所為か、藍の茶色い髪の毛先があっちこっちに跳ねている。いつもこんなだったような気もしないでもないけど。さっきから忙しなくこっちを見ては逸らし、見ては逸らしを繰り返す藍の目。

「何?」

一言声を掛けると驚いたように肩を跳ねさせた。

「えっと、えーっと…あのな、あのな射弦」
「だから、何?」
「もー、何でお前はそんな言い方ばっかりするんだよー!誕生日おめでとう!」

自棄になったように怒鳴り散らす藍。そんな姿を見て笑いが零れた。

「ふっ…それ…祝ってるの?」
「祝ってる!すっごく祝ってる!…射弦がそんな言い方ばっかりするのが悪いんだ」
「すぐ拗ねる」
「拗ねてない!拗ねてはないからな!」
「ほんと…朝から、元気だね」

適当に濁すと、反論しかないって顔でぶつぶつ言ってる藍。こんな言い方しかしてない割には、結構喜んでるんだけど。そんなことも気付かないから藍で、だからやっぱり藍がいい。今隣を歩いているのが藍じゃない他人だったら、きっと気持ち悪くて仕方ないと容易に想像ができる。

「ねえ、何かないの?」
「何かって?おめでとうって言ったから十分だろ」

拗ねた顔してそっぽを向きながらそんな言葉を言うなんて、これは何をされてもいいってことだろう。藍のくせに、そんなこと許さないよ?

「全然、足りないけど」

顎を引いて藍の唇を奪って数秒。唇を離すと茫然と固まったままの藍。キスするといつもこんな風に固まるんだ、いつになったら慣れるんだろう。

「ば、ばか!こんなとこで…き、キスとかすんな〜…」
「藍が生意気な態度取るとかありえないから」
「生意気はどっちだよ、俺のが一応年上なんだぞ」
「今は同い年、でしょ」
「うわ…そうだった…」

してやられたって顔に出てるよ。頬を赤くしている藍に満足して、固まったままの藍を置いて歩き出す。少しをゆっくりとついてくる藍が小さく呟く声が聞こえた。聞かせたいのか、独り言のつもりなのか、どっちなのかな。

「俺、射弦に勝てる気がしない…」



愛でたい貴方に追いつく日




(藍に勝たせる気なんてさらさらないけどね)





もどる

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -