これは一体どうなってるんだ。
昼寝から目覚めてみたら、すぐ横で寝ていたはずの梓の姿が忽然と消えていてどこかに行ってしまったのだろうかと辺りを見回しても見当たらない。足元の方を見るとふとんを被って丸まっているのが見えたから、ふとんをまくりあげて起こしてやろうとした。

「あーずーさ!」

思いっきりふとんをひっぱると中から出てきた梓はそれはそれは小さくて。身長が縮んでしまったというより若返ってしまったと言った方が正しいかもしれない。なんでこんなことになったんだと思考を巡らせると、すぐに一つの答えに辿り着く。それは昨日の夜に発明していた薬品で、梓に飲んでみてとせがんだら思いっきり断られ、無理やり飲ませようとする俺と拒否する梓の攻防の末、梓に頭から薬品がかかってしまったのだった。昨日も散々怒られたけど…これじゃあもう口もきいてもらえないかもしれないな。恐る恐る小さくなった梓を覗き込むとちび梓はすやすやと寝息を立てていて、あどけない寝顔は見た感じ幼稚園生くらいの年齢なのではないだろうか。思わず抱きしめたくなって抱き上げるとすっぽり腕に収まるサイズ。

(か、かわいい…!)

思いがけない薬の効果に驚きつつも楽しんでいるとちび梓が目を覚ました。

「んぅー…」
「おはよう、梓」
「…?だあれ?」
「あ、そっか。えっと俺は翼っていうんだぞ、つーばーさーわかる?」
「つばさ?」
「うん、そうだぞ。えらいえらい」

わしゃわしゃと頭を撫でてやるとくすぐったそうに眼を細めて、少し恥ずかしそうに口を開いた。

「それくらいわかるよ。ぼくはきのせあずさ。ねえつばさ、ここどこ?」
「えーっと…うーん話すと長くなるから、俺と一緒に遊ぼう、な!」
「ふーん。いいよ、あそんであげても!」

少し生意気な言い方が梓らしい。あそんであげる、なんて言い方をするけどきっと遊んでもらえるって喜んでるんだろうな。ちびあずさの満面の笑みを見てついつられて笑顔になった。いつもの梓はなかなか満面の笑顔なんてしてくれないもんなあ。
頭の中でちびあずさについて整理してみる、まずちびあずさはさっきまでの記憶はない。5歳の時までの記憶しかないみたいだ。あと、梓よりも素直だってこと。こんなこと言うと嫌な顔されちゃいそうだけど。あまりにかわいくて思わずぎゅっと抱きしめてもきゃはきゃはって笑い声をあげるんだもん。可愛いって言っても怒らないし。でも年齢の割には大人びているところはやっぱり梓なんだ。一緒に走り回って、発明品を見せてやったりして。ちびあずさは俺の発明品を興味深々で見つめていて、ちょっと得意気になっていろいろ説明してやったらすごい!って褒めてくれた。冷蔵庫に入っていたゼリーを二人で半分こして食べて、部屋の中に転がりながら星座の本を読んだ。

「つばさ、これなにざー?」
「ん?それは射手座、あずさの星座だぞ」
「へえー、つばさはなんでもしってるんだね」
「あずさもすぐに覚えられるぞ」

頭を撫でるとやっぱりくすぐったそうな顔をして、でもどこか嬉しそうに微笑むあずさ。目を輝かせながら星座の本をみるその姿は梓そのものだった。ちびあずさの行動の所々に見える梓の面影。小さいころから変わらないのであろう梓の一部分を見る度になんだか梓に会いたくなってしまう。目の前にあずさはいるのに、やっぱり元の梓に会いたいと思ってしまうのだ。薬の効果が切れたらまたもとの梓に戻ると思うんだけど、ずっとこのままだったら…それは…困るな。ちびあずさもかわいいし、すきなんだけど。

「つばさ?どうしたの?」

心配そうな顔を向けてあずさが問いかけた。

「ぬぬ?俺、どうかしてた?」
「さみしそうなかおしてる」

あ、そうか。梓のことを考えて無意識に強張っていた表情、子供は人の感情に敏感だと言うけれど、こんなに小さなあずさにまで心配かけるなんて、だめだな…。心の中で反省していると、あずさの顔が俺の顔に近づいてきて、その小さな唇が俺の頬にくっついた。

「げんきでるおまじない」
「…」
「げんきでたでしょ?」
「う…うん」
「よかった!」

思いがけないあずさの行動に驚きを隠せなくて、あずさの唇が触れたところをつい手で押さえてみたりして。

「つばさ、かおまっか」
「うわわ!これはあずさのせいだぞ!」
「ぼくなにもしてないもん」
「したよ!あのね、あずさ」
「なに?」
「そういうこと、あんまり他の人にしちゃだめだぞ」
「?はーい」

理解してくれたのかしてくれてないのか、ちびあずさは元気の良い返事を返してくれた。いつもの梓からはありえないような行動に翻弄されてどきどきする。あんなに小さい子供なのに…梓め…なんて恨みごと言ったりして。梓にもちびあずさにさえも敵わないんだな、俺って。

遊び疲れて眠ったら、いつのまにかちびあずさは元の梓に戻ってた。目を覚ました梓は小さい自分が翼と遊んだ夢を見た、とさっきまでのことを夢だと思っているみたいだった。けど、なんだか梓の機嫌がいいように見えたのは気のせいじゃないみたい。



夢見るワンダーランド


title:サーカスと愛人





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ついったーでちびあずさのお話をしたので書かせていただきました。おくりものというか押し付け!という感じだったのでこっそりと置かせていただきます。ぬこさんに限り強奪可ですので…!笑




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