いづあい


課題を終わらせるために来た図書館。暇だから一緒に行く、とついて来た射弦はふらりと何処かへ行ったまま帰って来ない。使っていた本を棚に返しに行くついでに探してみようと、館内を歩いて回るとその姿はすぐに見つかった。特徴的な髪色、思ったよりも目立つその姿に近寄っていくと、何やら分厚い本を開いて眺めていた。

「いづるーなに読んでんだ?」

肩口から覗き込むようにして聞いてみると短い返事が返ってきた。

「本」
「いや、それは見れば分かるって…何の本を読んでるのかって聞いたんだよー」

捻くれているというか何というか。驚かすつもりで肩口から話し掛けたのに全く全然、これっぽっちも驚きもしないし、おもしろくない。不満げに口を尖らせてみても射弦には効果はないみたいだし。射弦の読んでた本を覗き込むと、そこにはびっしりと小さな活字が並んでいて。

「これって…新聞?」
「過去の新聞1年分をまとめたやつ、だね」
「お前新聞なんて読むんだな」
「藍、うるさい」

年下のこいつにうるさいなんて言われてしまうところが情けない。悔しいけど言い返したところで勝てないことは目に見えているからそれ以上言うのは止めて、本の中の新聞記事に目を向けた。

「なあこれっていつの読んでるんだ?」
「藍が生まれた年のだよ」
「俺の?なんか面白いことでもあったのか?」
「藍が生まれた時、俺はまだ産まれてないでしょ」
「まあ、そうだな」
「だから知りたいと思った。ただそれだけ」

ただ、それだけ?射弦は淡々と言うから思わず聞き流してしまいそうになるけれど、暇だからと言ってついてきて、その上俺が生まれてから何があったのか知りたかっただなんてこれは十分自惚れたっていいだろ?なんでこいつってこんなに分かりにくいのに、ちゃんと考えるとこんなに分かりやすいんだろう。

「藍、見てるのはいいけど、課題、終わったの」
「へ?あ、あとすこし」
「こんなとこで遊んでないで、はやく終わらせちゃいなよ」
「今からやるって!」

射弦に背を向けて自分の席へと戻る。早く終わらせて、射弦の生まれた日の記事だけでもあとでこっそり読んでやろう。知りたいって思うのはお前だけじゃないんだからな!



貴方という人生


title:サーカスと愛人




もどる

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -