いづ→あず


「梓、キスしよう」
「は?何言ってんの?」

少し前を歩いていた梓の手首を掴んで引き留めて、一言そういえば怪訝そうな顔をして梓が振り返った。

「キスしようって言った」
「それは聞こえてたけどさ…射弦は唐突すぎるよ」
「そう?」
「そう」

そういうわけじゃないんだけどな。頭の中で考えてキスがしたいと思ったからそう言っただけ。思い付きで言ったわけではない。最初のころは面白半分、興味半分でキスしてみたり好きだと囁いてみたりしてたけど、今はそうじゃない。でも、そのことに梓は全く気付いてない、俺のことを受け入れてくれてはいるけれどそこに好きという気持ちがあるのかはわからないし、多分無い。それが解っているから今までのようにキスをしたり好きだと言ったりすることはできるけれど、本当に思っていることは絶対に口に出さない。リスクを冒して何かを得ることよりもこのまま微温湯に浸かっている方がずっと楽。いつまで続くかわからない関係にいつまで続くかもわからない気持ちを持て余すくらいならこのままでいい。
掴んだ手首を引きよせて口付けた。触れる程度の一瞬のキス。唇を離した後の梓を見ると俺の顔をじっと見つめていて。ねぇ梓は何を想ってる?透き通る紫の瞳を眺めた。


愛しているとは言えない


title:サーカスと愛人




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