新作のケーキが出たんだと言って僕の部屋にケーキの入った白い箱を持ってやってきた宮地先輩。こうしてたまに新作のお菓子を持って僕の部屋に来てくれるんだけれど、そのときの先輩の顔はいつも以上に嬉しそうでなんとも可愛らしい。例えるならそう、花が飛んでいるみたいってやつ。二人で会いましょう?って言って会うといつも緊張した面持ちでやってくるのとは大違い、お菓子の効果とはこんなに大きいものなのかと考えてしまう。中に招き入れて、僕は紅茶の準備を始め、テーブルに箱の中のケーキを出してそれを子供のように見つめる宮地先輩を横目に見て微笑んだ。

(砂糖…どこだっけかな)

角砂糖を探して引き出しを引くとこないだ友達の誕生日の時に使ったろうそくの余りが2本出てきた。赤と青の短いケーキ用のろうそく。先輩の持ってきたケーキを見て、持っていてもどうせ使わないであろうそれを引き出しの奥から手に取った。

「お待たせしました。つまみ食い、してなかったですか?」
「む…そんなこと、するわけがないだろう」
「ほんとですかー?あ、おいしそう」

三角形に切られたケーキは真っ白な生クリームで覆われているのにスポンジの間のクリームはピンクのいちごクリーム。上にはイチゴやブルーベリー、ラズベリーが飾られてとても可愛らしい。

「春の限定商品で、中のクリームもこだわって作られてるから…」
「宮地先輩って、甘い物のことになると人が変わったようですね」
「別にそんなことは」
「ありますよ?」

言葉を遮って言うと、少し口を尖らせる宮地先輩。悪いなんてこれっぽっちも思ってないんだけどな。

「そうだ、宮地先輩これつけてもいいですか?」
「…?なんだ?」

紅茶を乗せたプレートの上に一緒に乗せてきたろうそくを取り出すと、宮地先輩は首をかしげてそれを見た。

「ろうそく?」
「こないだ友達の誕生日の時に使って余ったんです。せっかくだからこのケーキにさしてもいいですか」
「ろうそくをたてると、なんだか誕生日みたいだな」
「先輩の誕生日も僕の誕生日も大分先ですけどね」

ケーキの上に1本ずつたてられた赤と青のろうそく。

「ろうそくを消すとき一回で吹き消せると願い事が叶うっていうじゃないですか」
「そうなのか?」
「そうなんですよ。だから、願い事、しながら吹き消してください?」
「ああ、分かった」

火を点けようとすると、もう少し待てって宮地先輩に止められた。きっと一生懸命願い事を考えてるんだろう。

「いいですか?点けますよ」

ライターの火をがろうそくに小さな灯りをともす。ろうそくの灯りで周りがぽっと赤い色に染まる。僕の顔も、宮地先輩の顔も。

「はい、どうぞ吹き消してください」
「木ノ瀬も一緒にやるだろ?」
「はい、もちろんです」

せーの、小さく掛け声で合わせて二人で吹き消した。2本のろうそくの炎はすぐに消え、先端からは白い煙がひょろひょろと昇っている。それを取った後に先輩にフォークを渡す。待ちきれないと言わんばかりの顔でケーキに向かっている先輩にどうぞと促せば満面の笑みを浮かべた。一口、口に運んでみると甘いクリームと甘酸っぱいベリーの酸味が口いっぱいに広がった。

「美味しいです、ありがとうございます」
「…なら、よかった」
「ところで、先輩はさっきどんな願い事したんですか?」
「そんなの教えるわけがないだろう」
「聞きたいです」

言うのを躊躇っている先輩の顔をじーっと見つめると、しぶしぶながらも口を開いてくれた。

「誕生日もまたこんなふうにできたらいい…とか」
「え?」
「いいだろ!お前はどうなんだ」
「いや、僕も同じようなことを思い浮かべてたから…驚いちゃって」

またこうやって先輩とケーキを食べられますように、なんて願い事を思い浮かべて。あんなに考えてた先輩が最終的に行きついた願い事が僕とのことで。これが嬉しくないわけがないじゃないか。

「1回で吹き消せると願い事が叶うって、本当なんですね」

二人が同じことを願っているのならば、叶わないはずなんてないですよね。それに、宮地先輩の願い事なら、僕が叶えてあげたい。つい嬉しくなって口元が緩む僕のことを見て、同じように小さく微笑んだ宮地先輩。こういう瞬間を幸せだな、なんて思うんだ。




願いをふきとばす





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みうさん誕生日おめでとうございます!いつもお世話になってるのでついお祝いしたくなってしまいました。こんな梓龍ですがよかったら貰ってやってください。素敵な1年になりますようにー!

2011.05.20 しぎみや




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