※死ネタ注意







きらりと光る一番星に目を奪われて足を止めた。なぁ、梓?今そこで笑ってるのか?星に向かって問いかけても返事はなかった。

梓が宇宙に旅立ったのはほんの半年ほど前。目を輝かせて子供みたいに喜んでたことを覚えてる、俺も一緒になって梓が宇宙に行くことを喜んだことも。帰ってきたらケーキを買って梓のお帰り会をしようと約束して、梓が宇宙へ旅立ってからは毎日カレンダーにしるしを付けて梓の帰りを待った。帰還の日が近づくにつれて時間が進むのが遅く感じるくらいに待ち遠しくて、はやく梓を抱きしめたくて、自分の仕事にも身が入らないくらいの状態だった。

でも、梓は帰って来なかった。
帰ってくる前に、空のお星様になっちゃった。

梓を無くして、毎日毎日ただひたすらに泣き暮れて。今でもこうやって外を歩いていると翼、って俺の名前を呼ぶ梓の声が聞こえてくるような気がして。でも、それは俺の作ったただの幻。

見慣れた景色を独りで歩く。桜の花びらが舞い散る公園に辿り着いてそのちらちらと降り注ぐ花びらを見つめた。そういえばここで梓と手を繋いだ気がする。俺が寒いって言ったら梓は仕方ないなって言いながらも手を差し出してくれたっけ。困ったな、あれほど泣いて、もう泣かないって思ったのに…また涙が出そうになる。外に出て梓がいないということを確かめるようにすればするほど、俺の中にどれほど梓があったのかを思い知らされる。桜の花びらから目を逸らすように目を瞑って歩けば案の定つまづいた。そしてまた自分の中の梓の痕跡を思い出す、つまづいて転んでも「ほんと落ち着きないよね」って言いながら差し伸べてくれる手はもうないのだ。

"もしも"って言葉を言い出したらキリがないと分かっているのに、"もしも"あのロケットに梓が乗っていなかったら、"もしも"奇跡的に梓が生きていたら…そんな考えばかりが次々と溢れ出てくる。もう梓は戻って来ないのに、それは変えようがない事実なのに。なのにまた"もしも"っていう言葉に縋ろうとするんだ。弱い自分を嘲笑うことしかできない。

なぁ梓、今年もまた桜が咲いた。一緒に見た満月から何度めの満月だか分からないくらいに時間が経った。今年の夏は暑いらしいから、涼しくしてくれるメカ造ってやらなきゃだな。秋はおいしいものがいっぱいあるぞ、梓が美味しいって言ってたアップルパイ、今年もまた出るかな。冬になったらかまくら作れるくらいに雪、つもるかな。
なぁ梓、どの季節その瞬間を想っても梓と一緒にいるところしか想像できないんだ。梓がいない春も、夏も、秋も、冬も、全然想像できないし、実感もない。思い出すたびにやっぱり胸は痛くなるし、こんなことならいっそ出会わなければよかった、なんて考えてしまうほどなんだ。あと何度、あと何度季節を繰り返したら梓のいない世界を受け入れることができるんだろう、出会えてよかったとまた思えるようになるんだろう。


なぁ、梓?
いつまでもいつまでも梓と一緒に笑ってたかった。
寂しい朝に起きたら腕の中に梓がいて、あったかい気持ちになったり、意識もしないで繋いでいた手の温もりもだんだん思い出せなくなっていくのかな?梓が"ここ"にいたってことは絶対に忘れないけど、俺の中であの星みたいに綺麗なものとして輝くようになる日が来てもいいのかな?梓と誓った永遠、形は違ってしまうけれど俺が叶えてやるから、俺の中で梓との思い出は永遠に輝くから。



なぁ、梓。いつになるかは分からないけど、必ず言う。
だから俺のこと照らして笑ってて。


さようなら、愛しき君よ



song:君の体温



君の体温っていう曲を聞きながら書かせていただきました。うまくまとめられなかったけどすごくすごくいい曲なんです。






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