ここ数日翼の機嫌が悪い。原因は大体分かってる。つい数日前に陸海学園の弓道部がうちに練習試合に来た、そこで射弦と話している僕を見かけたらしい翼。後からあれは誰だったのかと聞かれたから、中学の時一緒に弓道をやっていたということを教えてやったのだけれどそれからの翼はご機嫌斜め。今だって、一緒の部屋にいるというのに少し拗ねたような顔をして機械をいじっている。

「ねぇ、なに拗ねてるの」
「…別に拗ねてない」
「翼なんて見れば分かるんだよ。なんで拗ねてるの」
「…」

作業の手を止めてそのまま俯く翼。その表情は思いつめたようなもので。

「射弦が気に入らなかった?」
「別にそんなんじゃないぞ」
「…じゃあ何?」

溜息をつきながら言うと、寂しそうな顔をこちらに向けた。…やっとこっちを見た。一緒にいるというのにこっちを向きもしないで一人で拗ねた顔してるから少しだけ、苛立ってたんだからな。

「俺の知らない梓を知ってるんだなって思ったら…もやもやしたんだ」

ぽつりと呟くように言った言葉。ほんと、なんで翼はこんなに馬鹿なんだろう。"翼の知らない僕"なんかよりも"翼しか知らない僕"の方がとても多くあるというのに。それなのに、こんなに思いつめたような顔をして考えちゃって。本当に、馬鹿だな。

「全部知ってたらおもしろくないだろ」
「それでも梓のことは全部知りたいぞ…」
「じゃあ、今の僕の気持ちを教えてあげる」
「え?」

少し距離を取って座っていた翼の方へ寄って、身体ごとこちらを向かせた。

「折角一緒にいるのにさ、拗ねてばっかりいられたらいらいらするんだけど」
「…ご、ごめん…」
「前のこと気にしたっていいけど"今"僕といるのは翼なんだから。わかってる?」

目を丸くして僕の話を聞いていた翼は、やがていつも通りの笑顔を浮かべて嬉しそうに僕に抱きついてきた。肩口に顔を埋めて僕の名前を呼ぶ。大きな子供のような翼、その頭を無性に撫でたくなって手を伸ばす。ほら、こんな気を起させるのだって翼だけなんだから。そんなことを思って翼の腕の中に身を任せた。



巻き戻しはいらない






もどる

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -