梓と初めて会った時


弓弦、藍、俺、小さいころから一緒にいた。もともと他人に興味なんてなくて考えてみれば俺の世界には弓弦と藍しかいなかった。そんな閉鎖された俺の世界に、入ってきたのが梓。中学の特別顧問をしていた親父に連れられて行った弓道部、そこではじめて梓に会った。親父のお気に入りがいると何度か聞かされたけれど、興味も起きなくて軽く聞き流す程度、そこまでいうのは珍しいとなんともなしに思っていただけだった。道場に入って、それがどいつなのかはすぐに分かった。一人だけ、纏う空気が全く異なっていたから。無色透明の射形、正確無比なその弓に、俺は生まれて初めて『敵わない』と、そう思った。そして興味を持つ。木ノ瀬梓というその存在に。

「いやーすごかったな、あの木ノ瀬ってやつ!あれ射弦と同い年だろ」
「そうみたいだね」
「珍しいな、射弦が興味持つなんて」
「だなー、いつもはそうだっけ?とか言って全然覚えてないもんな」
「まあ、藍とは違うから」
「なんだよそれー」

相変わらずの藍と俺たち兄弟の3人で帰る道のり、いつも通りのことだけどいつもとは違う胸の内。木ノ瀬梓の弓が、射形が、彼自身が頭から離れない。透明な目が眩むほどに綺麗なそれ。これを他人に対する"興味"というのか、"羨望"というのか敵わないという気持ちからくる"嫉妬"なのか、それとはまた違った感情なのかは分からない。

「どした?射弦、なんか楽しそう」
「そう?」
「そう?じゃないだろー。なんだなんだ、木ノ瀬のことでも考えてたのか?」
「藍、気持ち悪い顔しないで」
「…どうしてお前はいつもそうなんだ?なぁ…」

実際は、横で項垂れてぶつぶつ言ってる藍の言う通り。俺は木ノ瀬梓に興味を持った。
来週、弓道場へ行くのが楽しみだと感じる程度には。


目が眩むような




title:サーカスと愛人




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