雨が降る前の空気の匂いが好きだ。
昼休みの生徒会室で窓を開け、外の空気を吸い込むとふわり雨が降る前の匂いを感じた。空を見上げると遠くに黒い雲があるのが見え、朝に見た天気予報の通り夕方ころには降り始めるのだろうかと窓を閉めた。案の定、放課後の生徒会の仕事が終わるころになってポツリポツリと雨が降り始め、帰るころには大降りになっていた。
持って来ていた傘を適当に回しながら玄関に向かうと、先に出て行ったはずの月子が激しく打ち付ける雨を見ながら一人溜息をついているのが見えた。傘が無くて帰るに帰れないということはその様子からすぐに分かった。俺が近づいていくのに気付くとくるりと振り返った。

「あ、一樹会長。お疲れ様です」
「おう、お疲れ。お前傘無くて帰れないんだろ」
「えっと…雨降らないだろうなって思って出てきちゃって…」
「ほら」

持っていた傘を差し出すと困ったように慌てられる。

「そんな、悪いですよ!会長が帰れなくなっちゃうじゃないですか」
「いいんだよ、もう一本あるから。お前に風邪引かれて休むようなことがあったら仕事が進まなくて困るからな」
「そこなんですか!?」
「颯斗に怒られそうだし。だからいいんだよ、ほら使って帰れ」
「…じゃあ、ありがとうございます」

少し遠慮がちに傘を受けって、帰路につく月子を見送った。何度か振り返って心配そうにしている月子に「気にしないで気を付けて帰れよ」と手を振ってやれば笑顔を浮かべて帰って行った。

(さーて…まだ帰ってないはずなんだけど)

そんなことを考えながらふと後ろを振り向くと階段を降りてくる誉が見えた。こちらに気付いた誉はゆっくりと笑顔を浮かべながらこちらにやってきた。

「一樹も今帰り?」
「ああ、誉のことを待っていた」
「待ってた?…あれ、朝持ってた傘は?」
「さっき月子に貸しちまったんだ。だから誉、傘入れて」

笑って言うと、きょとんと目を丸くする誉。そのあとにふわっとした微笑みを浮かべてから自分の持っていた傘を広げ俺を呼んだ。




「一樹が傘なんてもってくるから雨降ったんじゃない?」

先程よりも弱くなった雨の中、歩調を揃えながら二人ならんで帰る。一つの傘の中に誉と二人、すぐ隣から聞こえる声が心地よい。

「誉と相合傘できたんだから得したなー」
「そんなことばっかり言ってると傘から追い出しちゃうよ?」
「こら、やめろ」
「ふふっ。なんだか…こうやってると一樹と僕しかいないような気になっちゃうね」

傘の中の小さな空間、それはなんとなくこの場に自分たちしかいないような気を起させる。誉のいうことは最もだった。それを少し頬を赤くしながら言う誉がやけに可愛く見えて。そう思ったら誉の腕を引いて唇を奪っていた。

「…っ…一樹!」
「誉が可愛かったから」
「ここ外なんだよ!?」

さっきとは比べ物にならないくらい赤くなって抗議する誉。だって仕方がないだろう?小さな空間は俺とお前の二人しかいないようなそんな錯覚をさせるんだ。そう思ったのは、お前も同じ。

「傘の中だからいいんだよ、誰も見ちゃいない」
「…強引」
「そんなの今に始まったことじゃないだろ?」
「そうだね」

困ったように微笑んだ誉の肩を抱いて少しだけ引きよせる。こっちばかりに傘を傾けるせいで誉の肩が少し濡れていたから。その意味に気付いた誉は何も言わずに一歩距離を詰めてきた。小さく開いた雲の隙間から漏れる光にキラキラと反射する水たまり。傘を打つ雨の音は大分小さくなっている。この分だと虹が見えるかもしれない。誉は何を考えているだろうか、覗いた横顔がくすぐったそうに微笑むのが見えた。ああ、こんなだったら雨の日も悪くない。



ふたりだけの水色ドーム






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眞柚さんへ!
相互記念ということで書かせていただきました。梅雨も近いし相合傘とかいいなぁなんて思いながら書きました、ぬいほま…ちゃんとなってるか心配ですけども、よかったらもらってやってください(´ω`)
どうぞこれからもよろしくお願いいたします!それから、誕生日おめでとうございますー!

2011.05.08 しぎみや






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