久しぶりの休日、天気も良かったから少し出かけてみることにした。一人で目的もなく歩いているのは嫌いではない、むしろ自分だけの時間は大切にしたいと思っているしいい気分転換になる。春から徐々に夏に変わっていくだろう暖かな日差しを浴びながらふと宮地先輩のことを考える。今日は弓道部の練習も休み、真面目な宮地先輩だから一人で弓道場へ向かって自主練してそうだな、なんて容易にその姿が目に浮かんでしまってつい笑みがこぼれる。

(宮地先輩も誘ってくればよかったかな)

大分歩いて来てしまっていたからわざわざ戻るのもな、という考えに至りそのまま一人で散歩を続けた。ふらふらと行くと立ち寄ったことのない商店街に辿り着いた。休日ということもあってかそれなりに賑わっていて、色々なものに目が行く。ふと目に留まったのは和菓子屋さん、店の中には柏餅がいくつも並べられていた。

(そうか、今日は5月5日だったっけ)

小さい頃、こどもの日には必ずと言っていいほど柏餅を食べていたという記憶が蘇って、なんだか懐かしい気持になった。店内に入るとふわりと甘いにおいが鼻をくすぐり、柏餅のそばに寄れば独特の香りがする。甘いものが大好きな先輩のことを思いながら二つ、いややっぱり三つ、と柏餅を手にとった。一緒に来れなかったからおみやげに、たまにはこういうのも悪くないだろう。渡したらどんな顔するかななんて期待をしながら来た時よりも弾む歩調、小さな紙袋に包まれて渡されたそれを持って学園の方へと戻った。




弓道場へ行くと、思った通り宮地先輩が一人黙々と練習をしていた。ほんと、生真面目なんだから。気付かれないようにこっそり中に入って宮地先輩の練習している姿を見つめた。宮地先輩が僕に気付いたのはそれからしばらくしてからで、気付いた先輩は盛大に驚いていた。

「な、なんでお前がここにいるんだ!?」
「なんでって…宮地先輩に会いに来たに決まってるじゃないですか」
「ぬ…いつからいたんだ」
「結構前からですけど、先輩なっかなか気付いてくれないから。でも先輩の練習してるところを見ていられたから得した気分です」

睨んだ顔でこっちを見てくるけれどそれが照れ隠しなのはすぐに分かって、笑顔を向ければ目を泳がせて言葉に詰まる宮地先輩。

「今日は朝からいたんですか?」
「いや、さっき来たばかりだ」
「あ、そうだったんですか。てっきり朝からずっといたのかと」
「午前中は少し、出かけていた。ちょっと待ってろ」

そう言って先輩は更衣室の方へと消えていく。少しして戻ってきた先輩の手には小さな紙袋。よく見覚えのあるその紙袋は先輩の大好きなお菓子屋さんのもので。

「今日は5月5日だからな…その…柏餅を買いに行ってきた」

思い切り目の前に紙袋を突きつけられる。

「うまい堂の柏餅は毎年人気だからな、朝から行ってきた」
「宮地先輩…そこまで食べたかったんですか」
「ぬ…今年は…せっかくだからお前にも食べさせようと思って…だな」
「僕のため、ですか?」
「べ、べつにお前のためだけってわけじゃ…!」

顔を赤くして反論する宮地先輩。僕にも食べさせたかっただなんて、こうも嬉しいことばかり言ってくれるとこのままどうにかしてしまいたい衝動に駆られてしまうんだけど。相変わらず真っ赤な顔の宮地先輩に僕が買ってきた柏餅の紙袋を差し出せば不思議そうに首をかしげた。

「それ、ぼくからのおみやげです」
「おみやげ?」
「散歩してたら和菓子屋さん見つけたので。開けてみてください」

言われるままに袋を開けて中身を覗き見た先輩の顔がパッと明るくなるのが見える。甘いものを前にした時の嬉しそうな先輩の顔。

「僕も先輩と食べたくって買ってきちゃいました、柏餅」
「うれしい…」
「え」

柏餅の袋を抱えてふわりと微笑む宮地先輩の口から出てきた言葉が耳を疑うほど素直な言葉だったから、驚いてしまう。

「さっそく食べるぞ」
「…はいはい」

お菓子を前にすると素直になってくれるのか?なんていう疑問が胸に浮かんできたけれど、柏餅を頬張って笑顔を浮かべる先輩を見ていたらそんなこと二の次になってしまう。たまにはこういうのもいいかもしれない。宮地先輩が買ってきてくれた柏餅は独特のいい香りに包まれて甘い甘い餡の味。

「おいしい」

ぽろりと口をついて出た言葉に宮地先輩は満足そうに笑みを浮かべた。



あなたのお口にあうかしら


title:パッツン少女の初恋




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