ああ、これは恋なんだと、自覚したその瞬間に僕の恋は終わってしまったような気がするんだ。一樹は僕の友達で、多分一番近くにいてくれていて、僕のことを大切に思ってくれている、もちろん"友達"として。僕らの出会いは夕方の弓道場だった。行き詰った僕に声をかけてくれた一樹、あのときの一樹の言葉に救われた心。思えば、あの時から一樹に特別な何かを持っていたのかもしれない、自分ではどうすることもできなかったプレッシャーと言う鎖を一言で解き放ってしまう彼に。
心を開けば仲が深まっていくのはすぐのこと。僕と一樹と桜士郎と、一緒にいる時間は増えていきその時間が楽しくて心地の良いものとなっていった。そうそのときは"友達"として。僕の心に今までと違った気持ちがあると気付いたのは少し前のこと、それも一樹の一言で気付いたんだから皮肉なもので。僕はどれだけ彼の一言で心を揺らしてしまうんだろう、一樹の一言はどれほど僕に影響を与えれば気が済むのかな。一人苦笑を浮かべながらその時のことを思い出す、お昼休みの生徒会室。



「彼女が欲しい…」

ぼんやりと宙を見ながら一樹がぽつりと呟いた。食いついたのは桜士郎で、面白い話だと言わんばかりの笑顔で一樹にひっついた。

「彼女〜?なに、一樹女の子に興味あったんだ?」
「女に興味のない男がどこにいる」
「えーだって一樹変態だし〜?」
「変態とはなんだ!変態とは!」
「変態じゃない、ねぇ?誉ちゃん?」
「…え?ああ…うん」

一樹が彼女を欲しいと、そう言ったのだ。それは至って普通なことであって桜士郎と笑っていられるはずだったのに、何故か胸が痛くなって。一樹もそんなことを思うのかと、そして自分では"彼女"にはなれないのだと、そんなことを考えてしまった。桜士郎の問いかけにも上の空で。

「誉?どうかしたのか?」

一樹の声にびくりとする。こんな頭の中を知られてしまったのではないかと少しだけ焦って、何事もないような顔で誤魔化した。

「どうもしないよ。一樹は変態だったなって思い返してただけ」
「お前までそういうな」
「くひひ、誉ちゃんと俺で2対1−」
「うるさいぞ、桜士郎!」

あーだこーだと言い合う二人を見ながら、小さな針が入っているのではないかと疑ってしまうような痛みを感じてこっそりと胸を押さえた。





それからはなんとなくぎこちない毎日。これは恋の痛みと言うより失恋の痛み。何もしないうちに終わってしまった恋ってなんて可哀想なんだろう。そう思っても、僕の気持ちを一樹に伝えることはできない。言ったら一樹の"友達"でもいられなくなってしまうから。例え僕が一万文字の言葉を以てこの想いを伝えたとしてもきっと叶わない、そればかりか大切な僕の場所が無くなってしまうから。一樹の"友達"としての君の隣、僕の一番心地の良い場所。小さく溜息がでた。





* * * * *


「あ、誉ちゃんだ」

生徒会室の窓から外を眺めていた桜士郎が誉の姿に気付いた。その様子を見て怪訝そうな顔を浮かべ、会長の椅子をくるくると回転させている一樹に向かって言葉を投げかけた。

「誉ちゃんさ、最近元気ないんだよね」
「へえ」
「誰かさんのせいじゃないかって思うんだけど」
「…俺のせいって言いたいのか?」

くるくると回していた椅子の動きを止め、桜士郎の方をまっすぐに見つめればすぐに返事が返ってくる。

「それ以外に誰がいるっていうのさ」
「…」
「一樹が変態のくせして彼女が欲しいだなんて言うから、誉ちゃん考え込んじゃってるんじゃないの?」
「うるさい」
「はいはい、そんなに怖い顔しないでよ〜。でもね一樹、俺だって誉ちゃんのことは大事なんだから悲しそうな顔ばっかりさせないでよ」

一樹の視線と、桜士郎の視線がぶつかる。口元に笑みを浮かべた一樹は立ち上がって、生徒会室から出て行った。残された桜士郎はまた窓の外に目を向ける。

「二人して気持ち押し込めて無理しちゃって…見てるこっちが心配しちゃうよ」



* * * * *



「誉」

背後から呼びかけられたその声は振り返らなくても誰ものかすぐに分かってしまった。チクリと胸が痛んで振り返るのを戸惑った。振り返らずにいることも構わずに、一樹は言葉を続けてくる。

「最近、俺のこと避けてるだろ」
「そんなこと、ないよ」

声が震えないように必死に力を込める。視界が揺らんで目じりに涙が溜まってくるのを零さないように。

「何かあったなら言えよ」

言えるわけがないのに、そんなことをそんなにも優しい声で言う一樹は酷い。溢れた涙に肩を震わせたら、すぐに気付いて自分の方を向かせる一樹。強く引かれた腕に一樹の手を感じてどきりとした。

「そんな泣いてるくせに、なにもないわけないだろ…」
「…っ、だって…言えないよ」

一樹と今までみたいに一緒にいられなくなるかもしれないのに。

「いいから、言えよ」
「嫌だよ…僕が…僕がどれだけの言葉を並べたとしたって…叶わないもの」

次々と溢れてくる涙の止め方を僕は知らない。叶わないと分かっていても溢れてくる一樹が好きだという想いをどうしたらいいかも分からない。涙でいっぱいの目で一樹を見れば、まっすぐに僕のことを見つめる瞳、切なそうに歪められた顔。

「一樹…僕…」


途端、重ねられた唇。一樹の腕の中に収まった僕の身体。呟くように発せられた声に耳を疑った。

「好きだ」
「…うそだ」
「嘘は言わない」
「だって…僕、男だし、」
「それでもお前がいいんだよ」

信じられなくて、一樹の顔を覗き込んで見るとまた真っ直ぐな瞳で見つめられて。一樹の一言でこんなにも胸が激しく鳴っている、どうしてこうも一樹の一言は僕のことを捕えていくのだろう。こんな嘘みたいなことも全部信じてしまってもいいんじゃないかと思ってしまう。涙と大きな鼓動と、いっぱいいっぱいな頭の中。考えることを放棄して、一樹の腕に身を委ねて、幸せな気持ちに溺れてしまおう。

「ねぇ一樹、嘘じゃないなら、もう一度…」

返事の代わりに唇にあたたかなぬくもり。



万の言葉より一つの口付けを贈ろう






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梨斗さんへ!
相互記念ということで書かせていただきました。それから誕生日おめでとうございますー!ぬいほまのつもりなんですが、どうにもこうにも誉は泣かせるわ、一樹は訳分からない男だわで申し訳ありません(´・ω・`) 良かったら貰ってください!
これからもどうぞよろしくお願いいたします(´▽`//)ほまたーん!


2011.05.08 しぎみや






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