足りない、足りない、足りない。例えるならば水槽に入れられた金魚に十分に空気を補充させないせいで金魚が苦しそうに呼吸をしている、そんなかんじ。毎日同じ教室で授業を受けているから見ることができないわけではない、でも、だからこそ辛かったりするもので…。夢の大型連休ゴールデンウィークを目前に控えた今週、意地悪だとしか思えないような課題の量に宇宙科の生徒は参っていた。それは俺も梓も例外ではなくて、朝から学校へ向かい、課題をこなせば夜遅く、そんな生活が続いていてここのところ全然梓と話してないし触れてない。中途半端に見ることができるもんだから俺としては蛇の生殺し状態だ。
(はやく梓を補充したい…)
今日が終われば明日からは休み、午後の眠たい頭でぼんやりとそんなことを考える。少し前の方に座っている梓の頭が眠たそうにうつらうつら動いているのが見えた。
「やっと終わった〜…」
長く感じられた授業も終わり、ようやく休みがやってくる。生徒会の仕事を終えれば完全にゴールデンウィークに突入できる。周りの生徒たちが次々と教室から散っていく中に梓を見つけて近づいた。これから部活に向かうのであろう梓の袖口を軽く掴めばくるりとこちらを振り返った。
「翼…どうしたの?」
「部屋遊びいっていい?」
「別にいいけど…多分帰ったらすぐ寝るから」
「そんときは勝手に入る」
小さく頷き、荷物を背負って教室から出ていく梓を見送って自分も生徒会室へと向かった。行ったら行ったで、ここ数日課題だなんだって忙しくしていた俺を気遣ってくれたぬいぬい達がいつもよりはやく帰るように促してくれた。みんな優しいんだ。
「あずさー」
帰って来ていそうな時間見計らって部屋を訪れたけれど、返事がない。扉に鍵がかけてなかったのは、入ってきてもいいっていう印、と解釈して梓の部屋に侵入した。
「梓ー?はいったぞー」
部屋は暗くて梓はベッドにころがっていた。相当疲れていたのだろう、制服も着替えずに横たわっている。少しはだけた襟元がたまらなくてつい喉が鳴る。無防備に晒された寝顔、小さく開いた口元からは寝息が聞こえてくる。ベッドの上の梓に覆い被さるようにして抱き締めると少し苦しそうにした梓が目を覚ます。
「つばさ…?きたの?」
「うん、梓足りないから充電しにきた」
「ていうか…重いんだけど…」
「無防備に寝てる梓が悪いんだぞ」
ぎゅうぎゅうと抱き締めると梓は少し不満げに腕の中で身体を捩った。
「嫌?」
問えば目線を逸らしたままそういうわけじゃないけど…と顔を赤らめた。
(なんだ照れてるのか)
梓は甘えるのが苦手、優しくすると恥ずかしいのかツンとするんだけどそれがさらにいとおしくて。そんなことを思っていると梓の手が俺の背中に回って微かな力でもって抱き返された。
「梓も俺が足りなかった?」
「そりゃあ…でも翼ほど盛ってはいないけど」
「だって俺、梓補給しないと死んじゃうー」
ぎゅーっと腕に力を込めて腕の中の梓がつぶれそうなくらいに抱きしめた。
「ねぇ梓、今週はいっぱい我慢したからさ、いい?」
「…いいよ」
梓は仕方ないな、って顔を作るけど、俺が梓不足なように梓も俺不足なのはすぐにわかるのだ。俺を見つめた瞳と背中に回る腕がそれを言葉なしに伝えている。
「大好きだぞ、梓」
唇にキスを落として、首筋に噛みついた。強く吸ってやると白い肌に紅い華が咲いて、いやらしくも鮮やかだ。
「そこ見えるんですけど…」
不満そうに言われても、そんなこと気にしない。もう我慢する余裕もほとんど残ってないし。それに…
「連休で誰にも会わないから大丈夫だぞ!」
自信を持って答えれば半ば諦めたように微笑む梓。
「なら、いっか」
返事の代わりにもうひとつ口付けを落とした。
君がないと息もできない
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