去年の誕生日は19日になった瞬間に携帯の着信音が鳴った。電話を取ると、優しい声で誉が「一樹誕生日おめでとう。今年の一番は僕だったかな?」と祝ってくれた。一樹の誕生日を一番に祝いたかったんだ、と言ってくれた誉の言葉が嬉しくて何度も頭で繰り返してから眠りについたことを覚えている。

人間、一度経験してしまうと次も、と期待をしてしまうものだ。日付を跨いで少ししてから鳴ったメールの着信音、携帯電話を手にとると小さな窓に送信者の名前が流れる。送信者は桜士郎だった。メールを開けば意味の分からない長々とした文章と最後に付け足したように「誕生日おめでとう」と書いてあった。内容も一言も桜士郎らしさが感じられて自然と笑みが出る。「ありがとう」長い文面を送るのは得意ではないから一行そう書いて送信のボタンを押した。

(今年の一番は桜士郎か…)

何も不満があるわけじゃない、祝ってもらえるだけで十分にありがたいことだ。それでも、ふっと頭に浮かんだのは誉の顔だった。




午前がおわり午後になり気付けば放課後。いつものように生徒会室へと向かえば、生徒会室の前で落ち着きなく廊下を行ったり来たりする翼。俺に気付くとはやくはやく!と大きく手招きをされた。生徒会室の戸を開けるとクラッカの弾ける音と3人の「誕生日おめでとうございます」と言う声。錫也が作ってくれたという小さなケーキと、翼の作った発明品をプレゼントとして渡された。めずらしく爆発しないもんだから翼をからかってやると誇らしげに「ぬいぬいの誕生日だから頑張ったぞー」と満面の笑みを浮かべた。



寮の自室へ帰ったのは大分遅くなってからだった。今日は一日がとてもはやく感じる。たくさんの人に「おめでとう」という言葉を贈られて嬉しいと思う反面何かが足りないと感じてしまうのは一日を通してまだ誉に会えていないからだということははっきりと分かっていた。

「誉…」

ぽつり呟いたときに部屋の戸をノックする音、開けば会いたくて仕方がなかった顔があった。

「遅くにきちゃったけど…入っていい?」

少し遠慮がちにそういう誉を部屋の中に招き入れた。部屋に入った誉はおもむろに俺の正面に立った。

「一樹、誕生日おめでとう」
「…ありがとう」
「少し拗ねてるでしょ」
「別に?」
「あのね、今年は一日の一番最後に一樹を祝ってあげる人になりたいなって思ったんだ。だから、忘れてたとかじゃないんだよ?」

分かってるよ、お前が忘れてたんじゃないってことくらい。言葉が出てこないのは拗ねてるわけじゃなくて、お前がたった一言「おめでとう」と言ってくれただけで今日という一日がやけに色づいたように感じたから、そんな自分に驚いてたんだ。

「なんで最後になりたかったんだよ」
「一樹の中に僕の言ったおめでとうが一番残るように…かな」

誉は少し頬を赤らめて恥ずかしそうにほほ笑んだ。でも、早く言いたくて仕方なかったんだけどね、なんて言う誉のことを思い切り抱きしめたら驚いたように声をあげた。

「一樹?」
「お前が祝ってくれたら一番に残るにきまってるだろう?」
「え…」
「馬鹿だな、とんだ焦らしプレイだ」

たった一言でもその言葉をくれるのが誉だから、だから嬉しい。これほどにお前のことを想っていたと思い知らされる。

「誕生日だから好きなだけキスしていいだろ?」
「わっ、かず…っ…」

答える暇なんて与えずに唇を塞ぐ。一度深く口付ければ誉が小さく息を漏らす。

「…今日だけ特別だよ?」
「それはどうかな」
「まったく…ねぇ一樹」
「ん?」
「誕生日おめでとう、だいすきだよ」

綺麗な笑顔が見えたと思った瞬間、誉から唇を重ねてきた。一瞬触れてすぐに離れようとする唇を引きとめて。

「俺は愛してる」

唇が触れるか触れないかという距離で囁けばピクリと肩が動いた。可愛い恋人を今夜は思う存分抱きしめてやろう。誕生日なんだ、それくらい、きっと許される。



君のその一言で




Happy Birthday Kazuki !! 2011.4.19



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