「ねぇ、なんで学校始まったばっかりなのに残されてるわけ?」

春、新学期が始まったばかりの教室に僕と翼。冬の時期には既に空は暗くなりかけていた時間帯なのに、今はまだ青い空が広がっているのを見て日が長くなっていることを感じる。日差しはあたたかいけど、外から入ってくる風はまだ少し冷たかった。教室のはじ、窓際の席。僕の後ろの席で翼は問題集とノートを広げている。

「だって、この課題あるの忘れてた」
「学校始まる3日前位に僕言ったじゃん」
「えーそうだっけ」
「そうだよ」

しらないぞー、と口を尖らせながらも手際良くシャーペンを動かして問題を解いていく。さすがに、頭は良い。

「待っててあげるからはやくやっちゃいなよ」
「あれ、梓部活は?」
「今日はないんだって」
「じゃあ一緒に帰れるな!」
「終わるの遅かったら先帰るけどね」
「ぬぬぬ!それはダメなのだ!」

先程よりも早くペンを走らせて集中し始めた翼を横目に、ぼんやりと外を眺めていた。やることもなく、翼のペンケースの中を勝手にいじってみたりしたけれど面白いものは特に入っていない。ペンケースの中に使いかけの消しゴムがいくつも入っているのは小さいころから変わってない。ペンケースの脇に置いてあった黒のメガネケースを手に取る。中には翼のメガネ。最近かけているところをあまり見ないけれど、コンタクト入ってるからか?取りだして掛けてみると、思ったよりも度が強くて目が痛い。

「翼ってこんな目悪かったの?」
「んーなんかどんどん悪くなるー…って梓かけたのか?」
「うん、今かけてるけど。度強くて目痛い」
「梓は目いいもんな」

ずっと机の上に向けらていた翼の顔が上がって目が僕の方を見た。目をまんまるくしてじーっと見られるとなんだか変な気になる。

「何?メガネ似合わない?」
「ちがうぞ、梓がメガネするとかわいいなーって」
「そう?」
「うん!」

恥ずかしげもなく言うから逆にこっちが恥ずかしくなるって翼はいつになったら気付いてくれるのだろうか。メガネをはずして、元のようにしまうと不満そうに翼が口を開いた。

「えーもう外しちゃうの?」
「だって目痛いもん。今度伊達メガネでもかけてみようかな、似合うと思わない?」
「んー…だめ!」
「なんでだよ」

さっきかわいいとか言ってたくせになんだこいつは。

「梓のメガネは俺だけが見れればいいから、わざわざ伊達メガネかけなくたっていい」
「もうかけてやんない」
「え!?なんで」
「なんでも。ほら、はやく続き、手止まってる」

納得いかないって顔をしながらまた課題に向かいペンを動かしはじめる翼、それに背を向け席に座り直した。少し上がった心拍数を悟られないように、早く落ち着けと身体に言い聞かせるようにする。翼の口から発せられる直球な言葉は僕の心臓を早くするみたいで、こればっかりはどうしようもなくて、平気なふりしてやりすごすしかないのだ。気付かれたら、悔しいから。

「ねえ梓?」
「…ん」
「あと30分で課題終わったらもっかいメガネかけたとこ見して」
「…あと20分で終わったら、いいよ」
「ぬはは、了解」

きっとまた翼のメガネをかけることになるんだろう、あれ、度が強くて目が痛くなっちゃうんだけど。まあ、いっか。


シークレットハニー


(メガネの梓は俺だけの!)



title:パッツン少女の初恋




もどる

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -