※後夏ネタです注意!




抜けている抜けているとは思っていたけれど、ここまで酷いとは思わなかった。

明日からの合宿についての打ち合わせの途中、突然現れた金久保先輩に驚いたのも束の間。合宿は明日からだというのに顔を出してくれるのは実に金久保先輩らしいと思う反面嫌な予感がした。

「金久保先輩、今日はどうしたんですか?」

犬飼先輩の問いかけに、当たり前と言わんばかりの顔で答えたのは宮地先輩だった。

「そういえば…言ってなかったか?」
「明日の出発は朝早いからな。金久保先輩には今晩、俺の部屋に泊ってもらう事にした」

聞いてないぞーと言う白鳥先輩の横、自分の顔が明らかに機嫌が悪いというような顔に変わっていくのが分かる。思ったことを顔に出さないでいることは得意だったけれどそんなこともしていられないくらいに苛立っていた。
(そんなの僕だって聞いてない)
わざわざ隠しておこうとする人でないことくらいは分かるけれど、どうしてこうも大事なことを忘れていられるかな。たとえ金久保先輩だとしても、どうして他の男を部屋に泊めるとか言いだすかな。…明日から、二週間の合宿だというのに。
苛立ちが頭を支配してその後は何を話していたのかまったく耳に入ってこなかった。



* * * *



食堂に集合と言われ、道着から着替えを始める。白鳥先輩や犬飼先輩に続いて騒がしく出ていく部員たち、残っているのは僕と宮地先輩だけになっていた。僕があからさまに不機嫌な顔をしているからか時折宮地先輩が困ったような視線を向ける。そんな視線を無視して着替えを続けていると名前を呼ばれる。

「木ノ瀬」
「…なんですか」
「怒っているのか?」
「見て分かりませんか」

冷たい言葉で返してやると途端に途切れる会話。いくら僕でも怒らずにいられるわけがない。明日から二週間は合宿になるから宮地先輩に触れられない。大切な先輩の最後の夏を邪魔したくないから、どんなに近くにいたとしても我慢しようと決めていた。せめて合宿に行く前の夜くらいは一緒にいたいと思っていたのに。にもかかわらず他の男を部屋に泊めると聞かされたのは数十分前。こんなことをされては、想っていたのは僕ばかりではないかと疑ってしまう。

「…悪かった。合宿のことで頭がいっぱいで…話した気になっていて…」

ぽつりぽつりと話し始めた宮地先輩。知ってますよ、何枚も資料を眺めながら計画を立てたり、職員室に足繁く通って打ち合わせを進めていたりしたこと。ただでさえ真面目な性格をしているのに『部長だから』と、とくに頑張っていたことも。それに…そんな泣き出すんじゃないかって顔されたら、怒っていられないじゃないですか。

「あーあ、せっかく今夜は宮地先輩をたくさん補給しようと思ってたのに。…先輩も僕が欲しいでしょう?」
「…」

ふざけた調子で言葉を返してみるけれど、先輩は黙ったままだった。

「あれ、いつもならすぐに否定してくるのに、珍しいですね」
「もう…怒ってないのか?」
「怒ってますよ?少しだけ」

先輩の方に近づいて、思いっきり顔を近づける。

「だから、今日の夜の分ここでいただきますね」
「なっ…」

先輩の首に腕をからませながら唇を奪う。文句なんて言わせる暇も与えない、文句を言いたいのは僕の方なんだから。深く深く口付けてやれば息が苦しくなったのか、空気を求めて声を漏らす。

「ん…っ…」

僕の好きな甘い声。本当はもっと聞きたいけれど。長いキスの後、唇を離すと顔を真っ赤にして目じりをうっすら濡らした先輩。いつもは照れ隠しに怒るのに、今日はとても素直。

「今日はこれで我慢してあげます」

これ以上は我慢利かないから。余裕な顔をして強がってみると、ちいさくごめん、と声が聞こえた。

「次は立てなくしてあげますから覚悟しててくださいね」
「調子に乗るな…!」

そういいつつも怒った顔してないんだから、いいって取ってもいいんですよね?宮地先輩?



だからあなたを憎めない


title:サーカスと愛人




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