ふわふわにスポンジにたっぷりと塗りたくられた白い生クリーム、その上には真っ赤ないちごが綺麗に並んでいていちごの間には隙間がないくらいふんだんに生クリームがデコレーションされている。女の子がみたらかわいいと言って喜びそうなそれを嬉々として見つめる宮地先輩は僕からしたらケーキなんかよりもずっと可愛くて。ついいじわるの一つも言いたくなってしまう。

「宮地先輩ってほんとにクリーム系のもの好きですよね」
「ああ、甘いものは好きだがクリームは特に好きだ」
(まったく…そんな嬉しそうに好きとか言っちゃって)

フォークを片手にケーキを十分目で堪能した後、ようやくケーキに手を伸ばした。

「ねえ宮地先輩」
「ん?」
「ケーキと僕のキス、どっちが好きですか?」
「…なっ!?」

にっこり微笑んでみせるとあからさまに嫌な顔をされる。

「そ、そんなの…そ、そもそもその質問、意味が分からないぞ」
「そうですか?先輩があまりにも甘いもの好きすき言うから、ちょっと聞いてみたくなりました」
「訳がわからない…!」

動揺してるのは目をあっちこっちに動かしてる姿から一目瞭然なんだけどな。

「それじゃあ、そのケーキ」

手をつける直前のケーキを指差すと、警戒したような目とぶつかる。

「そのケーキ食べるの我慢してくれないともうキスしてあげません、って言ったらどうしますか?」
「な…なに」
「だから、どっちがいいですか?って」

ケーキ食べるのと、僕にキスされるのと。
流石に意地悪言いすぎたかな、と思って宮地先輩を見ると困った顔をして黙りこんでしまっていて、手に持ったフォークも微動だにしない。

「先輩?」
「木ノ瀬、」
「はい?…んぐっ!」

呼ばれたと思ったら口に向かって思いっきりケーキを突っ込まれた。たっぷりのクリームが口に入りきらなくて唇に残る、口の中に広がる甘い甘い味。

「なんなんですか、いきなり!」
「お前も食べたんだからな、だから…さっきのは…」

なし、とどんどん小さくなる声がそう告げた。少し赤らんだ顔でそんなことを言うもんだから可愛くて仕方なくて、きっと困った頭でいっぱいいっぱいになって考えたんだろうその行動はどこかずれているようにも思えたが、それさえもどうでもよく思えてしまった。3分の1以上が無くなってしまったケーキをようやく頬張ることができて嬉しそうなその顔。口に出すと怒りだすから心の中で呟く。

(あーなんでこの人こんなにかわいいんだろう)

口いっぱいにつけられたクリームのお返しと言わんばかりに唇をくっつけてやればクリームのせいなのか先輩の唇のせいなのか分からないけど甘い甘い味がした。


甘い海に酔いしれて






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