僕は走った。

部長の言葉を聞いて思考が停止した。心臓が大きく鳴っていた。部長に一言今日は休みますと告げて、僕は道場への道を逆走して宮地先輩のところへ走っていた。あの真面目な人が顔を見たくないという理由だけで朝練を休むわけなんかなくて、食堂で嬉しそううにクリームのたっぷり乗ったデザートを食べているところを見かけなかったのは何時ぶりだっただろうか。どうして、どうしてもっと早く気付かなかったんだろう?連絡もせずに休むなんて、先輩に"何かあったのか?"じゃなくて、"何かあったに違いない"なのだ。
走って走って先輩の部屋の前まで来て、戸を開けた。

「宮地先輩!」

赤い顔で辛そうにしている先輩の額に手を当てると僕でも分かるほどに熱い。床に置きっぱなしの制服は濡れていて、昨日雨の中ずっとあのまま外にいたことが容易に想像できた。
(熱出して、一人で苦しそうにしてないでよ…)

「宮地先輩…」

うっすら目を開いた先輩の目は熱で浮かされて潤んでいる。

「木ノ瀬?」
「先輩、ごめんなさい!ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい」

先輩が目を開けた、ただそれだけで安心して思い切り先輩のことを抱きしめた。驚いて先輩は目を丸くする。謝っても足りないくらいなんです。一人で心細かったでしょう?熱にうなされて辛かったでしょう?昨日のこと…不安だったでしょう?

「一つ目は昨日のごめんなさいです。次は先輩のこと傷つけて雨に当てちゃったこと。次は一人で辛い思いさせちゃったこと。最後は…僕がもっと早く気付いてあげられなかったこと…です」

無意識に腕の力が強くなった僕の腕の中で、先輩が僕の服を掴んだ。

「いや…俺の方こそ、悪かった…。昨日のこと…大人げなかったと思ってるし、今日はお前にすごく、心配をかけた」

ごめん…と消え入りそうな声で言う先輩。いつもなら、聞こえないですよって言ってやるんだけど今日はそんなことを言う余裕もない。腕の中の宮地先輩は安心したように微笑んでくれて、熱のせいなのかいつもより素直。ね、だからいつも意地悪な僕もつい優しく優しくしてあげたくなってしまうでしょう?愛おしさとお詫びの気持ちを込めて、宮地先輩にキスをしたら、真っ赤な顔で眉間にしわを寄せているから笑ってしまった。



ワンテンポ遅れて君が言う



(熱がうつっても…しらないからな)
(それで先輩の熱が無くなるんだったら僕何回でもしちゃいますけど?)




title:パッツン少女の初恋




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