木ノ瀬と喧嘩をした。

口喧嘩なんて大して珍しいことではなかった、以前は。最近は口喧嘩をすることも少なくなっていて、あってもすぐに収まりがつく程度のものだったといえる。なんて自分は大人げないのだろう、年が上であるのにこうやって喧嘩をして、素直に謝ることさえできずにいるのだ。木ノ瀬の苛立った目を見るのが怖くて、目線を逸らしてしまう始末。「もういいです、僕は帰りますから」そう言って去っていった後ろ姿を何も言わずに見つめることしかできなかった。

春も近いというのに空気はまだ冬の冷たさを帯びたままで、頬に当たる風が冷たい。大分長いこと外にいたせいで指先の感覚はあまり残っていなかった。動く気も起きなくて、浮かぶのはあいつの後ろ姿で、背を向ける瞬間の顰められた眉を思ってはただただ落ち込んで。暫くして降ってきた雨は自分の心のなかと似ていて酷く冷たかった。痛い…心なんて見えないくせにこうして痛みがあるのは何故なのだろう。少し歪んだ視界。雨が頬を伝っていた。

(寒い…)

寒気を感じた身体が訴えかけてくる。カタカタと小刻みに震えながら、やっとのことで寮に戻ると既に空は真っ暗で、曇った空に星は一つもない。

(気持ち悪い)

震える身体を動かして濡れた制服から着替えてみても寒気は一向になくなることはなく、徐々に身体は重くなる。そのうちに段々と寒いのか熱いのか分からないような感覚に陥って、布団に潜れば瞼が自然と落ちてくる。くらくらする頭の中で唯一考えていられたのは木ノ瀬のことで、嫌われたらどうしようなんて女々しいことを必死に考えている。

(木ノ瀬、木ノ瀬…木ノ瀬)

気付くと眠りに落ちていた。



目を覚ました時にはもう昼近く、慌てて起きようとすれば三半規管がおかしくなったようにふらふらするし頭がボーっとして重たい。顔がやけに熱くて…(ああ、熱を出したのか)ようやく自らの状態を把握する。

(学校に行って…木ノ瀬に会わなければ)

制服を探して目を遣ると昨日の脱いだままの濡れた制服が目に留まり、溜息。動こうにも身体が言うことをきかなくて熱にやられた頭は眠りを要求してくる。倒れるようにベットの中で再び眠りに落ちた。




雨で隠した一筋の涙


title:パッツン少女の初恋



→side;Azusa&Ryunosuke


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